home

ミステリの祭典

login
楽園炎上

作家 ロバート・チャールズ・ウィルスン
出版日2015年08月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 小原庄助
(2018/08/10 07:47登録)
異質な生命体による静かな侵略を描いたこの作品は、奴隷の幸福か、自由に基づく混迷か・・・。そんな問いが通奏低音のように流れている。
地球を包む「電波層」を利用する通信技術が発達した社会は、平穏に見えるものの、偽装人間がひそかに侵入していた。それに気付いた少数の人々と彼らの戦いが始まる。だが偽装人間は「個」ではなく、集合知性型生物の一部であることが明らかになる。しかも彼らは人間社会を侵略する一方で、人類の好戦性やうたぐり深い性格を緩和し、破滅的な戦争が起こらないように管理もしていたのだ。
それに対して、偽装人間と戦う人々を突き動かしているのは、自説が社会に受け入れられないことへの不満や、異常な存在への嫌悪や恐怖といったものでしかない。集合知性型生物を排除するのは「正しい」選択なのか。そもそも人間は「正しい」存在といえるのか。こうした視点が、古典的な主題に新たな息吹を吹き込んでいる。
侵略というテーマに全体主義や監視社会の恐怖も重なるこの物語は、「みんながひとつ」である生命体の不気味さと共に、人間の狭量さや攻撃性の深さをも浮き彫りにもする。恐ろしいのは「外」からの侵略か、それとも疑心暗鬼に陥りやすい人類か。極上の冒険サスペンスであり、知的興奮も満たしてくれる一冊。

1レコード表示中です 書評