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ミステリの祭典

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夜明けのヴァンパイア
ヴァンパイア・クロニクルズ

作家 アン・ライス
出版日1981年08月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 tider-tiger
(2019/07/16 01:18登録)
~ルイと名乗ったそのヴァンパイアは今までに起きたことをすべて話してしまいたいと言う。若者は録音機材を用意し、ヴァンパイアの言葉を待った。
「私がヴァンパイアになったのは、二十五歳の時、一七九一年のことだ……」
ルイは二百年にも及ぶ生涯のことをポツリポツリと話しはじめる。
※ちなみに極東日本では1791年から江戸市中で銭湯の男女混浴が禁止となったらしい。~

1976年アメリカ作品。原題は『Interview with the Vampire』大変な力作だと思う。ただし、内容は重く、罪の意識など日本人には少しわかりづらい面もある。そのせいなのか、米国と日本ではアン・ライスの人気に大きな落差があるという。物語としても手放しに面白いとは言い難い作品で、性的な部分などが受け入れがたいと感じる方も多いと思う。採点は6点。
序盤はルイがウダウダと悩むばかりで話がなかなか動かず、エンタメとしてはクローディアなる少女ヴァンパイアが登場するあたりから盛り上がっていく。自らのルーツを求めての東欧への旅など非常に面白い。
新たなヴァンパイア像を生み出した。すなわち哀しいヴァンパイア物語の走りのように言われる作品だが、本作の凄さは哀しいヴァンパイア像の確立ではなくて、ヴァンパイアの苦悩を哲学的に掘り下げようという試みだと思う。ヴァンパイアであること。それはどういうことなのか。
ヴァンパイアの感覚、本能、生活、愛、考え方などが種々のエピソードの中で繰り返し述べられる。ヴァンパイアが人間に狩り立てられるというお約束は控えめで、ルイは人間をあまり脅威とは感じず、人間VSヴァンパイアの構図は希薄である。
ルイは一方的な殺戮者であり、そのことに悩むと同時に悦びも感じはじめていく。そうした変化の様子が綿密に描かれ、ひどく生々しい。
ヴァンパイアものはやはり人間との関わりを描いてこそ面白くなると思うのだが、本作はそこに重心を置かない(『ダレン・シャン』の4~6巻などは人間不在の失敗例だと思う)。

萩尾望都の『ポーの一族』と設定に類似点があり、近い時期に刊行されたこともあってどちらかがどちらかに影響を受けているのではないかという説もあるらしいが、自分は才能ある作家と才能ある漫画家がたまたま同時期にヴァンパイをモチーフにした物語を着想したに過ぎないのではないかと思っている。両者は本質的にはまったく異なる作品である。
萩尾望都はレイ・ブラッドベリの作品の漫画化をしているが『ポーの一族』はブラッドベリに近しい美意識を感じさせる。そして、萩尾望都の絵はブラッドベリの文章のように美しい。
本作『夜明けのヴァンパイア』を耽美的だと見る方も大勢いると思う。そういう方は『ポーの一族』と『夜明けのヴァンパイア』がとても似ているように感じるのかもしれない。自分は美意識が働く前にルイの自意識に圧倒されてしまった。

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