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ミステリの祭典

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夢幻紳士 幻想篇
夢幻紳士 漫画

作家 高橋葉介
出版日2005年04月
平均点10.00点
書評数1人

No.1 10点 クリスティ再読
(2018/07/26 21:33登録)
漫画の書評をしていいか..というのが、掲示板の方で議論になっていたのだけども、管理人さんの結論としては「ミステリと断言できるのならば」ということになりました。なので書評をさせていただきます。
本作は70年代末のいわゆる「ニューウェーブ」としてデビューした高橋葉介の、ライフワークと呼ばれる「夢幻紳士」の新規シリーズとして、ハヤカワミステリマガジンで2004年度に連載された作品である。夢幻紳士自体、いろいろとバリエーションがあるが、職業は一応「探偵」で一貫しているし、特にHMMでの連載ということもあって、シリーズの中でもミステリ色が濃厚である。このHMMでの連載の夢幻紳士は「幻想篇」「逢魔篇」「迷宮篇」と一まとまりになって「ハヤカワ三部作」と通称される。16ページの短編にまとまりをつけ、しかも1巻12回の中で話の繋がった結末をつけ、さらにハヤカワ三部作でも大きな話の流れを作り上げるという、とんでもない構成の美をもっている。とりあえず「幻想篇」は...
精神病院に監禁された「僕」に、その「影」として夢幻紳士が訪れる。「僕」は財産を狙う叔父に「受信機を埋め込まれて」狂わされていたのだった。夢幻紳士は「受信機」を「僕」の頭から抜き出して、精神病院から救い出すが、叔父の策謀によって「僕」はその後も窮地に陥り、「この子は僕の大切なパトロンなんだ」とする夢幻紳士が、「僕」を幻想的な手段によって救い出す。その中で次第に明らかになる「僕」の秘密と、夢幻紳士の正体...
でまさに、本作が漫画であることによって、絵でしか表現できないファンタジーが横溢する作品である。ハヤカワ三部作でも「逢魔篇」の後半から採用された筆のかすれを使ったかなり特殊な画風(本作では表紙カバーなどで窺われる)を支えるために、かなり上等な紙での製本(ややお高いが)になっており、「幻想篇」では版画的な白黒の鮮やかな美を堪能できる。
しかも、本作は「信頼できない語り手」を非常にうまく使ったナラティブが効果的で、これが夢幻紳士の正体とも密接に関わりあっている。まさに上出来なメタ系の幻想ミステリであり、しんみりとした結末まで一気に読ませるユニークな傑作となっている。
HMM連載ということで、ミステリファンの間でも目にしたことのある方も結構いるのではと思う。今回書評をさせて頂いて、評者自身何か光栄、といったような感慨がある。

僕の名前は夢幻です 夢幻魔実也というのですよ

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