home

ミステリの祭典

login
軍艦泥棒

作家 高橋泰邦
出版日1976年01月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2018/07/08 08:47登録)
(ネタバレなし)
 昭和40年代の横須賀。頭脳派のフーテン青年「マッちゃん」こと松木は、仲間たちを束ね、わざと小船を大型船にぶつけて示談金を得る<海の当たり屋>をやっていた。そんな彼は恋人の「ミッチー」ことミチ子が寝物語に口にした半ば冗談の思いつき「アメリカ海軍の軍艦を奪ってタヒチに行きたい」に心を刺激される。「偉大な犯罪的頭脳」を自認する松木は、そのミッチーを含む男女6人の悪友、さらに米軍ゆかりのアメリカ人の美少女ジェニー、奇人で天才発明家の日本人「ジョー」を仲間に引き入れ、横須賀沖に駐留中のミサイル満載のフリゲート艦162を無血シージャック。軍艦を占拠した総勢9人の「海賊」は、追跡してくるアメリカ艦隊を尻目にタヒチを目指すが。

 1971年に月刊ペン社からハードカバー(当時価格550円)で刊行された、日本の海洋小説の第一人者(「ホーンブロワー」やハモンド・イネス作品の翻訳者でもある)の手による青春海洋ケイパー冒険小説。
 現在のAmazonにはこの元版の書誌データが無く、のちのソノラマ文庫版のもののみあるので、そっちを本レビューのデータ欄に入れておく(いつかAmazonに元版が表記されたら、その時に入れ替えよう)。たぶんこっちの文庫版で読んだ人の方が多いだろうな(ソノラマ文庫で最初からこれはジュブナイルだろうと思ってページをめくりだして、いきなりベッドシーンが出てきてびっくりしている人もいるみたいだが、もともとは普通に一般向けの作品なのである)。

 元版の帯には「紺碧の大海原でくりひろげる痛快奇想天外なユーモア大アクションドラマ!」との惹句があり、まんまその通りの内容。
 ちなみに本書は第25回(1972年度)日本推理作家協会賞受賞作品の本命候補だったが、選定の直前で当時の選考委員の誰かから「これは推理小説ではない」という物言いがあり、それで受賞をストップしたという無念の経緯を当時のミステリマガジンのレポートで読んだ覚えがある。冒険小説のような広義のミステリ、SFなどのミステリ隣接ジャンル作品が山ほど受賞している後年~現在からはとても考えられない事態で、当時のミステリ文壇がいかに頭が固かったかという逸話である。ちなみに小松左京の『日本沈没』が日本推理作家協会賞を受賞したのはこの2年後だった(笑)。日本推理作家協会の視野が広がったのは、せめて、この『軍艦泥棒』の賞授与を巡る争議があったことが肥やしになったのだと思いたい。
 
 でもって肝心の作品の中味だが、主人公の松木はアタマはいいくせに、その仲間ともどもこのシージャック計画の立案そのものは実に感覚的で衝動的。悪く言えば何も考えていないのだが、この辺は当時のアングラ文化的な思考ということだろう。いきなりタヒチを目標に定めたところから始まるのも21世紀の目で見ると珍奇ではあるが、そっちについては数年前からの小笠原返還や沖縄返還を経て日本人の目がさらに外洋・南洋に向いていた時代の空気だろうね。
 とはいえ海中からフリゲート艦に迫る奇襲作戦そのものは、さすが海洋小説の大家だけあって綿密・理詰めに描き込まれ、読み応えは十分にある。
 主人公たちが、フリゲート艦の乗員などを絶対に殺したり傷つけたりしない、また自分たちもつまらない仲間割れはしない、と海賊なりの強い矜持(海の男としての誇り)をもって作戦に臨むのもいい。
 人質逃亡や人間関係のギクシャクなどはやがて中盤以降、いくつものクライシスを招き、作品のスリルとサスペンスを高めるが、それでもどこかに安定感があるのはさすが謳い文句どおりの「ユーモア大アクションドラマ」という実感である。後半、逃亡中の洋上で予期しない事態に遭遇した一同の、そして敵役であるアメリカ米海軍の「畜生、カッコいいじゃん!」な場面なんかもすんごく泣ける。ラストの人を食ったまとめ方もニヤリとさせられる。
 弱点といえば9人の主人公チームのなかに、きちんと描き込まれた面々と、ほとんどただの脇役っぽいキャラに終った者たちとの格差が生じちゃったことかな。まあひとつの物語、ひとつの事態のなかでまんべんなく全キャラにまともなドラマがあるのも不自然だという意味では、この仕上げでいいのかもしれんが。

 あと、本書は東宝かどっかで映画化企画があったけれど、結局、流れてしまったというウワサを読んだ記憶もある。いかにも昭和の映画黄金期を過ぎた、70年代の邦画界に似合いそうな内容だったのにな。実現しなかったのはとても残念。

1レコード表示中です 書評