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ミステリの祭典

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スカル・フェイス

作家 ロバート・E・ハワード
出版日1977年05月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 クリスティ再読
(2018/07/04 21:35登録)
日本のホラー小説受容に大きな影響を与えた国書刊行会のドラキュラ叢書というと、「黒魔団」とか「ク・リトル・リトル神話集」が有名だが、蛮人コナンのR.E.ハワードも1巻を与えられていた。表題作の「スカル・フェイス」が短めの長編で、それに加えて「狼頭奇譚」「黒い石」「アシャーバニバルの炎宝」「大地の妖蛆」「恐怖の庭」の5短編を収録。「狼頭奇譚」(ウィアード・テイルズに最初に載せてもらった作品だそうだ)「恐怖の庭」(私家版パンフに掲載の作)の2作が創元文庫の「黒い碑」に収録されていないが、「黒い石(碑)」「アッシャーバニバル(アッシュールバニパル王の炎の石)」「大地の妖蛆」ほどの重要度・名作度はない。その3作はすでに「黒い碑」で論評済なので、ここでは繰り返さない。「恐怖の庭」はコナンの原型みたいな作品で、「妖蛆の谷」「闇の種族」でも出た「現代人が憑依する古代人」というハワード独特の設定が、現代人視点での解説みたいで興味深い。コナンvsコウモリ男+人食い植物、という話。

問題は「スカル・フェイス」、スカーフェイス(傷痕顔)じゃなくて「ドクロ顔」である。ロンドンの阿片窟を根城に白人の絶滅を狙う怪人「スカル・フェイス」の陰謀を、ハシッシに溺れる主人公が正気に返って阻む通俗怪奇スリラーである。悪役の「スカル・フェイス」の設定が盛りすぎ。超古代人のアトランティスの生き残りで、霊薬によってほぼ不死の命を得て、黒人たちを催眠術で、黄色人種を麻薬で操って、白人文明を滅ぼそうとする...主人公のアメリカ人、スティーヴンはロンドンの阿片窟に入り浸り、スカル・フェイスの悪事の証拠を握った外交官の替え玉として一味に選ばれたが、麻薬も魔力も主人公の正義感を完全に麻痺させることはできなかった....一時的に超人的な力を与える霊薬の力を借りて、主人公はスコットランド・ヤードの特命捜査官ゴードンとともに大暴れする。
クトゥルフ神話と蛮人コナンのホームグラウンドとして有名な「ウィアード・テイルズ」に連載された作品である。そりゃ、フー・マンチューとかマブセ博士とか、この手の通俗スリラーはパルプマガジンにいくらでもあったんだろうが、いざ読もうとすると入手が難しい。本作は作者がハワードだからこそ訳されたわけで、そうみたら貴重なものである。妙なオカルトに黄禍論的人種差別がてんこ盛りだが、読み捨てスリラーだからマジに論評するのは意味がない。ヒロインと名探偵ゴードンが無個性とか、主人公が霊薬で超人的にパワフルになるのがご都合主義とか、もうツッコミどころ満載なのは言うまでもないが...
だけどね、妖異に加えて、本作一種のドラッグ小説で、結構ラリラリなところがあるのがホントの読みどころだ。全編実はドラッグによる悪夢でした、と夢オチされても納得しそうだ。

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