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ミステリの祭典

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さまよう薔薇のように

作家 矢作俊彦
出版日1984年06月
平均点8.00点
書評数1人

No.1 8点
(2018/07/03 06:23登録)
 3本収録のハードボイルド中編集。二村永爾シリーズではありませんが、矢作作品ではピカイチでしょう。例によってこれ以上無いほどキザですが、それを頭からケツまで微塵も揺るがずに押し通されると、読者としては負け惜しみしか言えません。一点の隙もないバレエ見せられてるみたい。殆ど話題に挙がらないのが不思議です。
 まず最初の「船長のお気に入り」は軽いジャブ。良家の子女と街のズベ公と愛人をしれっとしてやり通す十九歳の少女に翻弄される男たちと、その少女の死を巡るお話です。彼女が固執する「海賊の箱」の中身が最後まで分からないままなのもグッド。
 次の表題作「さまよう薔薇のように RAMBLIN'ROSE」はこの作品集のキモ。ハードボイルドとしてもミステリとしても一番出来が良いかな。一番短いですけどね。
 最後は「キラーに口紅」。キャラクターに振った分ややとっちらかった感じ。これがもう少し端正な出来だったら9点付けてます。横浜の馬車道でハンバーガー十三個投げて喧嘩して、車のトランクに入って死んでた男の話。
 とにかく筆達者な作者で、チャンドラーフォロワーとしては原寮より数段上でしょう。80年代の横浜を舞台に、風俗も完璧に嵌め込んでます。ストーリーの骨格も一切無理がない。それでいて意外。加えて不遜なキャラクターたちの洒脱かつろくでもない会話。この連作集はもっと評価されていいと思います。
 以前に作者のバブル期建造物批判のエッセイ「新日本百景」を読みましたが、ベクトルはやや異なるものの毒舌のキレは西原理恵子並みでした。このくらい底意地が悪くて筆が立つと、小説家稼業も楽しいでしょうね。

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