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ミステリの祭典

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エムブリヲ奇譚
和泉蠟庵

作家 山白朝子
出版日2012年03月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 メルカトル
(2018/06/21 22:24登録)
「わすれたほうがいいことも、この世には、あるのだ」無名の温泉地を求める旅本作家の和泉蝋庵。荷物持ちとして旅に同行する耳彦は、蝋庵の悪癖ともいえる迷い癖のせいで常に災厄に見舞われている。幾度も輪廻を巡る少女や、湯煙のむこうに佇む死に別れた幼馴染み。そして“エムブリヲ”と呼ばれる哀しき胎児。出会いと別れを繰り返し、辿りついた先にあるものは、極楽かこの世の地獄か。哀しくも切ない道中記、ここに開幕。
「BOOK」データベースより。

乙一が山白朝子名義で2012年に発表した時代ホラーの連作短編集。時代の明記は避けていますが、おそらく江戸時代と思われます。
詩的で美しいけれど生々しく残酷という相反する要素を持ち合わせる、奇跡的な作品集だと個人的には思います。これはやはり乙一にしか書けないのではないかという気がしますね。特に表題作は何とも言いようのない、『奇譚』と呼ぶに相応しい素晴らしい一篇です。

和泉蠟庵の付き人として旅に同行する耳彦が様々な怪異に見舞われるのですが、この耳彦が博打にのめり込む弱くだらしない人間として描かれているところがミソです。それにより自然と物語が進行していくケースもありますし、決してよくありがちな善人ではないが為に、その現実がストーリーに意外性を生み出す結果となっている場合もあります。
こういうのを隠れた名作と呼ぶんでしょうねえ。

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