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ミステリの祭典

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本格ミステリ漫画ゼミ
福井健太

作家 事典・ガイド
出版日2018年04月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 人並由真
(2018/06/20 12:17登録)
 800タイトル以上について語っているという謳い文句は伊達じゃなく、とんでもない情報量の一冊である。ミステリは好き、コミックも好きな評者だが、かといってミステリコミックや探偵漫画を特に意識的、体系的に読んでいる訳でもないので、初めて知る事柄も本当に多い本だった。その意味でまず敬服。

 とはいえ紙幅200ページ足らずの本文の中で、そんな800作品も網羅している情報の凝縮ぶりは正に諸刃の剣。特に前半など、単に<こういう作品があった~その作者のデータ>という、あまりにも悪い意味で総花的になってしまった記述のつるべ打ちには、かなりゲンナリした。
 もう少しくわしく評者の不満の念を説明するなら、まず前提として、本書は大別して「国内ミステリのコミカライズ」「翻訳ミステリのコミカライズ」「オリジナルのミステリ漫画1」「同2」と4つのカテゴリで構成。それら各項目の中で、さらに細かく章立てされている。
 ……これだったらそれぞれのカテゴリの中で(絶版か入手可能かを問わず)重要な&特徴のある作品を20作~30作ぐらいずつ選出して一作品につき数ページの構成で<作品の概要><書誌情報><探偵のキャラ><(ベースの小説があるものは)原作との比較><事件の梗概と謎の魅力><楽しみどころ>などの項目を設けたメイン記事として一本一本仔細に語った方がいい。
 そして現状の<ただ情報を載っけました程度の記述で紹介された、大半の作品群>は、巻末に表組みの形でデータを詳しめに記載し、簡単な扱いで済ませちゃった方が良かったんでないの? と思う。だってそういうやや作り込んだ書誌ページで、<こんな作品がありました>と読者が学べば、あとはこの21世紀のネット文化のさなか、興味を持ったファンがそれぞれ自ずとwebとかで該当の本の情報を追っかけていくこともできるよね。それで今回の本書が為したような(ごく最低限の)情報の提示とその享受はクリアされる。
 だからこの本、もっともっと面白く作れたような気がするんだよな。

 その辺の不満が強くて、評点はちょっと辛めの4点……にしようかとも思ったのだが、後半を読み進めていくにつれて、それぞれのオリジナル作品への記述にはなかなかの充実感があって、いくらか見直した。
 くわえて「結局はそこかい」と言われそうだが、とにかくこれだけのタイトルを読み、最低限でもその作品の情報を語れるという作者の読書量とサーチ能力は改めてスゴイ。知識だけじゃいい原稿は書けないが、いい原稿を書くには十全な知識(膨大な読書量)が必要という現実は、改めてこんな場で実感した。
 それから今回取り上げられた800作品の中に、昭和ギャグ探偵ものは入ってなかったのだけれど(『カゲマン』とかは載っている)、この辺はコラムとかで(その辺は本書の謳う「本格ミステリ漫画」の本筋ではない系譜として、目配せ的でもいいから)もっと語っておいてほしかったという感もあったり。
 まあ、今後また誰かが、<ミステリ漫画>というジャンルを語る本を書く際には前もって目を通しておくべき、そんな力作の一冊ではありますけれど。

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