home

ミステリの祭典

login
ウィッチハント・カーテンコール 超歴史的殺人事件
「魔女狩り女伯」ルドヴィカ

作家 紙城境介
出版日2015年04月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2018/06/12 15:00登録)
(ネタバレなし)
 魔法の探求が進み、その条理の大半がすでに明文化されている異世界・神聖インペリア帝国。そこの人々は「人間とは基本的に善性であり、殺人などの凶行を為した者は<異端者>として万民の目前で厳粛(残酷)に処罰されなければならない」という一定のルールのもとに日々を送っていた。ある日、帝国騎士団の準聖騎士である15歳の少年ウェルナー・バンフィールドは、現在世界で唯一の魔法研究家として高名な同じ年の天才美少女ルドヴィカ・ルカントーニの身辺警護を任される。だが帝国の歴史上の偉人「百年女王・フェニーチェ王」を祝う千周年記念の祭事の渦中、謎の発火事件が発生。ルドヴィカは自分の助手で姉のような少女アイダ・アングレージを炎の中に失った。しかし状況は他殺の態を示しながら、一方でその現場には当のアイダ以外の誰も入らず、また事前に仕掛けられた発火装置の類もない完全な? 「密室」であった。

 ランドル・ギャレットの「ダーシー卿」シリーズ(評者はまだ中短編を1~2本しか読んでないが)を美少女異世界ラノベの枠にはめ込んだような長編ミステリ作品(バトルものでもあり、青春ドラマでもある)。
 
 まあマイペースな天才美少女ヒロイン(本作の物語の一年前にも、その叡智で不可思議な凶悪殺人事件を解決しているという設定)とそのおもり役の男子主人公というキャラシフトは、まんま『GOSICK-ゴシック-』路線だが、その辺をもう<あまたのラノベ作品に定着したワンジャンル>と踏まえて読むなら、これはこれでなかなか良く出来ている。特にお仕着せの騎士道や常識ではなく、ヒロインの窮地を打開すべく自分自身が本当に為すべきことを見出していくウェルナーの描写は王道ながら熱い。本作のもうひとりのメインヒロインで、哀しい過去ゆえにかつての親友ルドヴィカに深い愛憎の念を向けるエルシリア・エルカ―ジの内省もよく描き込まれている。キャラ描写の面では異世界青春ラノベとして十分に堪能した。

 それで肝心の密室トリックはこの世界観ならではのロジックを活かしたもので、設定との親和性、またその意味での説得力はある。インパクトを受ける人には十分衝撃的だろう。ただし個人的にはこの大ネタ自体には割と早めに察しがついたし、ほかの少なくない読者も先読みできる……だろうなあ。実際、広範な意味でのミステリ作品の中には、このアイデアは前例のあるものだし(もちろん、ネタバレになるのであんまり詳しくは書けないが)。
 というか真相の解明まで、登場人物の誰も「その可能性」を口にしないのは読者視点で不自然な感じなんだよなあ。作中の人物たちには「それ」は想定しにくい事象ということかもしれんが、それならそれで劇中人物の思考にストッパーがかかる状況について、なんらかのイクスキューズは用意して欲しかった。

 ただまあ、真相発覚後に世界観のビジョンがぐんと広がる辺りはこの作品のキモだろうし、さすがにその辺はしっかり描き込まれている。それに続くエピローグ的な部分でのキャラクタードラマ、さらに『六花の勇者』みたいにその一冊での大きな謎が解決したら、さらにクリフハンガー式に次の謎が生じるこのシリーズ構成などは悪くない。先述のようにメインキャラたちもそれなり以上によく書けているので、そろそろ続編を出してくれませんかね。

1レコード表示中です 書評