home

ミステリの祭典

login
キリサキ

作家 田代裕彦
出版日2005年02月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 人並由真
(2018/06/01 09:17登録)
(ネタバレなし)
 17歳の若さで死亡した少年「俺」の魂は、死の世界で死神のような存在に出会う。「俺」が生前に敬愛していた姉の姿をとったその相手は「俺」の命名を受けてナヴィと名乗り、死ぬには早すぎたという「俺」の魂を現世に送り戻した。だが「俺」の魂は自分自身の肉体ではなく、自殺した女子高校生・霧崎いずみの肉体に憑依する。そんななか霧崎いずみ=「俺」は、女子高校生ばかりを殺傷する謎の連続殺人鬼「キリサキ」がまた出現したというニュースに触れるが、それは絶対にありえないはずだった。何故なら――。

 ヤングアダルト向けのミステリ叢書・富士見ミステリー文庫の一冊で、ホラーファンタジーの枠内に正統派&変化球ミステリとしての多様な仕掛けと興味を盛り込んだ作品。すでに刊行から10年以上になるが、一定数以上のファンからは名作として評価を固めているらしい。
(魂が入れ替わっての蘇生=その趣向を謎解きギミックに活用したミステリというのは、一部で話題を呼んだ昨年のあの作品に影響を与えているのだろうか?) 

 それで読んでみると……なるほど後半~終盤の展開はサプライズとどんでん返しのつるべ打ちで、しっかり食いついて行かないと読み手が振り落とされる感もあるほど(これから読む人は、登場人物についてのメモをしっかり取りながらページをめくることをお勧めする)。
 変化球にして剛速球の球筋を放ってくる送り手の才気には、たっぷりと堪能させられた。

 ただし仕掛けや伏線・手がかりの妙味が実に芳醇な一方、「この登場人物はあの別の登場人物のことをどう思ってたのかな?」「そこのところは書かれてないけれど不自然じゃないかな……」という、たぶん大半の読み手が思いつくであろう種類の疑問に応えてくれない箇所も結構、多い。ほとんどの読者は何かしらの疑問につまずくのではないかと思う。
 それを考えるとトリッキィに思えた終盤の仕掛けの数々のいくつかはいささか強引にも思えてきて、評価がいくらか落ちてしまった。
 それゆえ評点は本当は6~7点つけてもいいかと思ったところから多少差っ引いて、この点数に。
 あまりにもさりげなく提示された中盤の違和感の部分が、最後になって実は鮮やかな伏線だったと判明するようなハッとする箇所も確かにあるんだけどね。得点要素だけ拾えば、結構な秀作です。
 変わったタイプの謎解き&サプライズミステリが好きな人は、一回読んでみてもいいと思う。

1レコード表示中です 書評