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ミステリの祭典

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処刑

作家 多岐川恭
出版日1962年01月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2018/05/26 11:58登録)
(ネタバレなし)
 日米安保の争議に揺れる1960年代の初頭。恋人であるタイピスト・稲葉さちとの結婚を近々に控える青年・多門透は、政界の影の大物・吾妻猪介老人の秘書を務めていた。吾妻は無所属の一匹狼ながらその発言力は大きく、次期総理とまで目される傑物である。その夜も多門は、箱根の仙石原の吾妻の自宅で、吾妻に接見を求めてきた十人前後の客に順番に対応していた。やがてその翌朝、いつのまにか姿が見えなくなっていた吾妻が、箱根のロープウェイの搬器から吊り下げられた縊死体となって発見される。捜査陣、そして多門は昨夜の来訪者たちもしくは政界の関係者のなかに犯人がいるのでは? と思索を重ねるが、やがて露わになるのは、意外な展開を見せる殺人劇と思わぬ人間関係の実状だった。

(我ながら呆れたことに)多岐川恭は本作が初読のはずである(笑・汗)。
 マニア人気も高くマイナーメジャー作品も多い作者の著作だけに、じゃあどれから読もうかとちょっと迷ったが、せっかくだから本サイトでまだレビューのないこの作品を手に取った(笑)。
 本作は次期総理と期待される人物が箱根のロープウェイから宙づり死体で見つかるというショッキングな設定が、日本版EQMMの大井広介の連載月評記事「紙上殺人現場」で話題になっていたような覚えがある。

 今回は元版のハードカバーで楽しんだが、大きめの活字で一段組、270ページというほどよい紙幅。加えてとても平明な文体なので、さらっと読めてしまう。
 ただしミステリ&小説としての内容は濃い。
 政界周辺を賑わす登場人物たちはそれぞれキャラが立ってるわ、その面々の物言いや権謀術数のほどには21世紀の現在にも通じる普遍性があるわ(時代色として、左翼や女性そのほかへの「今だったらなかなかこうはダイレクトに書けないだろうな」という劇中人物の問題発言の類もあるが・笑)、主人公の恋愛模様は意外な展開を見せるわ、さらにフーダニット&ハウダニットのミステリとしては実に細かい大小の手がかりとトリックを組み合わせてあるわ……でかなり読み応えがあった。
 序盤の、大物政治家、箱根のロープウェイから死体宙吊り、というキャッチーでショッキングな導入部にいまひとつ必然性が弱い(一応の説明はされるが)のはナンだが、なかなかの佳作~秀作だと思う。今後も多岐川作品は読んでいきましょう。 

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