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ミステリの祭典

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人外魔境
折竹孫七

作家 小栗虫太郎
出版日1968年01月
平均点8.00点
書評数1人

No.1 8点 クリスティ再読
(2018/05/25 11:32登録)
小栗虫太郎としても最後の人気作ということになる。戦時色が強まる中書かれた秘境冒険小説の連作なのだが...評者の世代だとね、本作は80年台初頭のポップ・アイコンだよ。太田螢一の「人外大魔境」とか、あるいはゼルダの「密林伝説」とか、本作に取材したポップミュージックがあって、評者とか本当に直撃したわけよ。ムカシのニューウェーヴ、ミョーな教養がある(笑)。
今回改めて読んで、このシリーズ、ファンタジーで冒険でスパイ小説で、しかも読みようによっちゃハードボイルド、というジャンルミックスな面白みがある。ハードボイルド、意外でしょ。小栗っていうと、法水ものが一段落した頃の短編「地虫」がハードボイルドテイスト、と言われることもあるくらいで、要するにこの人、日本的な情緒感みたいなものはそもそも皆無で、外面描写が暴走気味に傑出した作家ということもあって、実のところハードボイルドとの相性が、いいんだな。とくに本短編集の最後を飾る「アメリカ鉄仮面」だと、主人公の探検家折竹孫七がニューヨークで失業して、調査も兼ねて潜函工事に潜りこむ描写とか、本当にハードボイルドな良さを感じるんだよ。
まあ本短編集、それでも「魔境」が主人公のようなものだ。折竹と同行するワケありな人々のドラマも織り込んで、奇々怪々でファンタジーな魔境の描写と同行者たちの情念のドラマと、魔境の謎解きとそれを利用した軍事的な策謀をミックスして凝縮された短編が続く。出来としてはやはり長めの「有尾人」(アフリカ大地峡帯?)「大暗黒」(サハラ砂漠をアトランチスに引っ掛ける)「アメリカ鉄仮面」(成層圏飛行とアラスカの火山)と、白痴美を示すキャラが印象的な「天母峰」(チベット)が、いい。
けど本サイト、クラブ賞を獲った香山滋「海鰻荘奇談」の評もまだないんだなあ。そのうちやらなきゃね。こういうロマン溢れる幻想冒険小説もミステリのうちだと評者は思うよ。

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