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ミステリの祭典

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西城家の惨劇

作家 志茂田景樹
出版日1995年09月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 人並由真
(2018/05/08 09:04登録)
(ネタバレなし)
 鉄道業とその関係企業を成功させ、一兆円とも噂される莫大な資産を誇る西城財閥。その中核にある西城家の現総帥は、三代目当主の龍一。彼は熱海市の先にある岬を占有した広大な敷地の中に、家族や親族そして使用人や嘱託医など約80人もの人間を住まわせていた。その敷地の中で、とある邸宅の一室の天井が瓦解したり、使用人が変死するなどの怪事が続発する。龍一の次女で盲目の天才ピアニスト・世志子は、アメリカに14年在住し、別名義で作家かつ芸術家としても活動する兄・春彦に手紙を書き、帰国を願った。一方、ただならぬ現状を気にした龍一は、執事の石室藤介に相談。彼らは香港在住の若手実業家で、さすらいのアマチュア名探偵との評判を呼ぶ烏丸良輔を招聘する。だが事態はついに連続殺人事件へと発展して……。

「書き下ろし猟奇ミステリー」の肩書きで刊行(新書の二段組み。290ページ弱)。SRの会の会誌「SRマンスリー」でちょっと話題になり、webなどでも、どうもクセ玉っぽい一冊、としてミステリファンの口頭に上っていた作品。現在は絶版だが、Amazonでも一時期は一万数千円の古書価(現在は8000円強)だったようで、その辺でも興味が湧いて借りて読んでみる。 
 ちなみに筆者が、奇矯な外見で一時期バラエティ番組などにも登場していた作者の著作を手にするのは、これが初めて。

 いやしかし文章が全体的に素っ気なくて、リーダビリティは高いとはいえない。読むのに軽く疲れた(汗)。
 しかも登場人物がやたらと多く、名前が出てくる人間をメモ書きしただけで50人前後に及ぶ。そのため、読んでる途中では、もしやこれは数ページに1人の割合で新規に劇中人物が登場し、そして終盤で、最後の最後に登場した人物が実は犯人……というおバカな作りの作品ではあるまいか!? とワクワク期待したが、幸か不幸か、その種の大技ではなかった(笑)。

 とまれ終盤の謎解きに至るまできわめて定型的に、複雑な人間関係に基づいた連続殺人が展開し(ただし話が劇的に動き出すのは後半からで、そこまではダルい)、なんだ、これはフツーのミステリでないの……と思っていたら、最後の最後、ほぼエピローグの部分で、ああ~という仕掛けが浮上してきた。
 ああ、このギミックが世に騒がれているんだな……という感じだが、一方でこのアイデアは、世代人のちょっとしたミステリファン(筆者程度のものでも)なら知っていても読んでいてもおかしくない、70年代に邦訳された某海外ミステリに前例のあるもので(これくらいまでなら言っていいだろう。なんせ該当例は何千冊もあるんだし)、もしかしたら志茂田センセ、そっちを読んでこれ書いたのかな、とも邪推する。
 まあ本作の連続殺人ミステリとしての基幹はまったくオリジナルのはずだから、パクリとかネタの転用とかの文句にはほとんど当たらないけれど。

 ただまあ、とにもかくにも前例の一冊がその大技を使う作劇上の、登場人物の内面的な必然性を感じさせ、ミステリドラマのメインテーマにも直結していたのに対し、こっちは良くも悪くも読者を驚かす思いつきに止まった感はある。
 そこが残念なような、はたまたそんな軽さが微笑ましくってこれで良いような。

 借りられるか、安く入手できるのなら、好事家ミステリファンは話のタネに読んでおいた方がいいかもしれない、そんな一冊。

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