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ミステリの祭典

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関東軍謀略部隊

作家 川原衛門
出版日1970年01月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 クリスティ再読
(2018/05/03 23:26登録)
日本で実録系のスパイ小説って何かないか...と思っていたら、父親の蔵書にいいのがあった。本作は満州で活動した「外人部隊」のうち白系ロシア人で作られた「浅野部隊」と興安嶺の少数狩猟民族のオロチョン人を組織しようとした野上大尉の活動に取材した実録小説である。タイトルに「関東軍」と入っているが、日本軍の満州駐屯軍だった関東軍の所属ではなくて、「満洲国軍」の所属だから本当はタイトルに偽りがあるが、まあ仕方がない。両部隊とも実質的な活躍はなくて、関東軍の崩壊とともにあっけなく消滅したから、戦史上の意義は薄いのだが、スパイ小説として読むとある意味リアルのきわみ、だろう。
白系ロシア人部隊はその政治的な立場からも、実に戦意旺盛だが、南方戦線が悪化して関東軍から部隊が引き抜かれ弱体化すると、ソ連を無用に刺激しないように...と政治的にややこしい部隊として持て余されることになる。ソ連参戦で関東軍が崩壊すると、この部隊の一部はあくまでゲリラ戦を挑んだらしい。
興安嶺に住む狩猟先住民のオロチョンをうまく組織できないか、という任務を帯びて単身野上大尉が派遣されて、オロチョンの部族とともに暮らしている。オロチョンの馬術と射撃は人間離れしているので、野上は豊富な物資を報酬に、オロチョンに軍事的な訓練をするのだが、野上の思い虚しく日本軍の形勢が不利になるととたんに...と両部隊とも日本軍の思惑どおりにはまったく動かなかったあたりが、民族問題のややこしいところである。
歴史の影に隠れてしまった戦史のエピソードなのだが、本作だったら一応ちゃんとしたリアルな「軍事スパイ小説」の範囲に収まるような内容である。本作では扱われていないが、たまたま樺太にいたために日露戦後の南樺太割譲で「日本人」になっちゃったニブヒやウィルタを、旧軍が徴用して諜報に使った話もあるしね。
評者どうも北方少数民族に妙な憧れみたいなものがあるんだよ...同系統の沿海州の少数民族を扱ったドキュメンタリ小説だと「デルス・ウザーラ」(黒沢明が映画にしている)がある。

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