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ミステリの祭典

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UFO殺人事件

作家 福本和也
出版日1981年09月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 人並由真
(2018/04/08 08:58登録)
(ネタバレなし)
 海上自衛隊の訓練飛行中の救難飛行艇(US-1型)は突然受信したSOS通信に応えて、硫黄島に向かう。だがそのさなか、US-1の副操縦士・浅原隆は彼方を飛行する白色光のUFO? を一瞬、目撃した。アマチュアUFO研究家の浅原は興奮するが、機長の青木や他のクルーともども救助を優先して硫黄島に急ぐ。だがそこでUSー1の一同が見たのは、不時着したセスナのなかでミイラ化して死んでいる3人の男女であった。その死体のなかにはつい先まで救難無線を発していた当人もいるようで、やがて浅原は誰とも知れぬ姿に変貌したセスナ内の女性が、実は自分の婚約者・香月衣子だったと知る。そしてミイラ化した男性の乗客は、プロ野球球団ジャガーズのベテラン捕手・上条裕一と判明。衣子の兄で、元スポーツ新聞の記者だった文彦は、浅原ともども事件の謎を追うが。

 1976年7月にカッパノベルズの一冊として書き下ろされた作品。2018年4月現在Amazonに、元版(初版)のISBN登録がないので、データ欄はブランクにしておく
(余談だがAmazonには、ポケミスもふくめて70年代周辺には東西ともども、元版・初版が未登録のミステリ作品が多いのはどういうわけだろう)。

 昭和の多作作家として知られる福本和也は、世代人のコミック・アニメファンにとっては野球漫画『黒い秘密兵器』『ちかいの魔球』の原作者、それにSFアニメ『宇宙少年ソラン』の先行TVアニメ企画に原作ストーリーを提供(メディアミックスの漫画版の原作も担当)としても著名。
 先述した二作の野球漫画、さらには本作での執拗かつ緻密な航空関連の描写でも分かるとおり、おそらく昭和の作家のなかでは筆頭格に野球と航空関係に強かったようである。
 それで本作はいかにも70年代半ばのオカルト&終末(一部のSFネタも含む)ブームらしい趣向だが、とにもかくにもUFO出現という衝撃的な謎、『漱石と倫敦ミイラ殺人事件』を思わせる生きていた人間が短時間でミイラ化の怪異、さらには死体の手に残るダイイングメッセージ「UFO」といった外連味ある趣向のつるべ打ちで読者を掴みにかかる。
 とはいえミイラ化の謎そのものは早々にネタが明かされ、あとはいかにも昭和の通俗ミステリらしいドロドロした、レイプして自分の女にしたとか寝取られたとかのアレな方向に行くのが、ややうんざり。いや、いやらしいミステリは大好きなのだが(笑)、作者のサービス過剰な接待顔が覗くと、こちらはどうも引いてしまう。錯綜する人間関係の謎も終盤ぎりぎりまで推理ではなく、単なる叙述によって明かされていくのもナンではある。

 それでもUFO出現の真相とダイイングメッセージの謎には一応のきちちんとした(どちらもしょぼいけど)解決が与えられるのは、それなりに好印象。それと真犯人はなかなか意外ではあった。読んでる内にナニな描写の連続で、読み手のこちらの推理する意欲が減退していた面もないではないのだが、もし作者自身に意図的にそんなスキをつく計算があったのだとしたら、そこはホメておこう。
 評点は4点に近めの5点。

※2018年4月11日以降は、どなたかが入れたようで<1981年09月>刊行という書誌データが入っています。それ自体は結構なのですが、これは元版ではなく元版と同じ版元の光文社の文庫版の刊行日です。一応、お断りを。

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