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ミステリの祭典

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メビウス・ファクトリー

作家 三崎亜記
出版日2016年08月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 糸色女少
(2018/03/30 20:05登録)
町の住民のほとんどが一つの巨大工場で働いている企業城下町が舞台。
そこでは市役所の機能も会社が代行し、商店もバスも会社の傘下にある。福利厚生は行き届き、社員家族は「メグリ」と呼ばれる互助システムで結ばれていて、一見すると理想的な環境。しかし、その「理想」が気持ち悪い。
社員たちは工場での仕事を「奉仕」、製品を「子ども」と呼び、愛情と使命感を込めて製品を作っている。そんな会社を、そして、町を包んでいる連帯感は、私財保有を放棄した実験的な共同農場の生活、あるいは宗教団体を思わせる。実際、会社のシステムを支えているのは一種の「信仰」。
「みんなと一緒」が尊重された世界にあって、規格を外れた人間はとても生き難い。そんな人間たちの疑問と怨念が、やがて恐ろしい事態を引き起こすことになる。だいたい工場で作られている品物が何に使われるものなのか、誰も知らない、そんな欺瞞が、やがて破綻するのは当然。
だが、本当に恐ろしいのはここから。嘘が暴かれた先に何があるのか。悪夢から覚めたら、また悪夢だった、という恐怖。それが本を手から離した後も続いていた。

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