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ミステリの祭典

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尋ねて雪か

作家 志水辰夫
出版日1984年11月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 Tetchy
(2018/03/25 23:58登録)
志水辰夫最初期の長編で4作目に当たる。高知出身の彼はなぜか北国を舞台にした作品が多く、本書も舞台は札幌。しかしこの氷点下の気温で雪が降りしきる北の街が志水作品にはよく似合うのである。

物語は盗まれた土地売買の契約書を取り戻してほしいと依頼されたヤクザの佐古田史朗が弟分の島と共に犯人を追って札幌に向かうが、当の本人はマンションで既に殺され、目当ての書類も無くなり、地元のヤクザとの対決に発展していくという話である。
彼が土地売買の書類を取り戻しに行ったのは捨てた故郷の北海道は札幌で、偶然にも捨てた継母とその娘、そして失踪した父親と出くわすという、昔ながらの運命の悪戯を絵に描いたようなお話である。

数十年経ってからの贖罪。しかもこれは自分勝手な贖罪だ。自己満足にしか過ぎない贖罪だ。しかし昭和の男とはこんな身勝手に生き、そして不器用だったのだ。

そして舞台は北海道は札幌。タイトルにもあるように物語全編に亘って雪が降りしきる。史朗が外に出る時は常に雪が降っている。
雪。それは史朗の心に降り積もる過去の澱。父親同然に自分を育ててくれた家族を捨てた後悔の念が強くなるにつれて雪の降る度合いも増えてくる。雪は史朗の行く手を阻むかのように降りしきるので、史朗は目指すところに常に遅れてしまう。大金をせしめて追われる弟を、その弟の行方を追う妹を、その恋人を探すのだが、常にその道行には雪が降りしきる。
訪ねる先は常に雪。それは彼にとって過去を償うための障害だった。

久々に読んだ志水作品は非常に泥くさく不器用な男と北の寒さと雪が終始舞う寂しい物語だった。幾分消化不良気味だがそれもシミタツの味として今は余韻に浸ろう。

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