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ミステリの祭典

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恐怖の背景

作家 エリック・アンブラー
出版日1953年11月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 クリスティ再読
(2018/03/11 18:12登録)
さてアンブラーもほぼコンプに近づいて、残るは本作と「夜来る者」になった。アンブラーの長編2作目だが、処女作の「暗い国境」はあまり「らしくない」作品なので、批評的にも敬遠されがちなんだが、本作はアンブラーらしい巻き込まれ型スパイ小説を確立した作品で、そういう意味では重要なんだけどね....
でまあ、本作はまだアンブラーがソ連について幻想を抱いていた時期でもあって、主人公のジャーナリストとソ連のプロスパイが組んで、直接にはイギリスの石油会社がルーマニアの利権のために、ルーマニアのナチシンパと組んで工作するのを請け負った、本人によれば「プロパガンディスト」、要するにディミトリオスの原型のような国際関係のはざまで暗躍する非合法活動屋のロビンソン大佐(サリッツァとか...名前はどうせ適当だ)の一味と対決する。
ソ連のスパイであるザレショフ兄妹は、サリッツァに買収されてソ連の軍事計画の写真を盗んだ裏切り者を、ついつい手下が殺してしまって、その容疑が主人公にかかることから、成り行きで主人公を救うことになって行を共にする。だから、まるっきりの善玉、というわけでもない。しかし、主人公が妙にスパイ活動というか、サリッツァへの仕返しに積極的なあたりが、なんとももにょる。困った。アンブラーらしさってのは、スパイ活動なんてロクでもない非合法活動だ、という妙に醒めたあたりだと思ってたのだが、本作のアマチュアの主人公は妙にノリノリだ。
「恐怖への旅」とか「裏切りへの道」とかだと主人公がカタギの技術者、というのもあって、スパイ活動に対する嫌悪感がイイのだが、本作の主人公はやくざなジャーナリストである。アンブラーも一夜にしては成らず、か。

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