home

ミステリの祭典

login
ドン・キホーテの消息

作家 樺山三英
出版日2016年05月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 糸色女少
(2018/03/11 10:56登録)
かつては「首領」と呼ばれ、社会のあらゆる利権とつながっていた老人が、生きているのが不思議なほどの症状で入院していた。それがどういうわけか病院から姿を消した。捜索を依頼されたのは迷子のペット捜しを専門とする、妙に哲学的な探偵。
そんな「探偵」の章と、よみがえったドン・キホーテが再び遍歴する「騎士」の章が交互に配置され、ドラマは意外な方向へと転がっていく。
自分は既に死んだはずだと自覚するドン・キホーテは、自分の生に半信半疑だが、サンチョ・パンサにねだられて理想の王国を求める旅に出る。やがて彼らは、王が統治せず、「みんな」の総意がすべてを決する世界に辿り着き、「みんな」の願望に沿って戦うことになる。
本家のドン・キホーテは現実と虚構の区別がつかない滑稽な男の冒険譚で、作中に架空の成立史などを含む人を食った作品だったが、本作ではいつしか「現実」の「みんな」が「虚構」にのみ込まれていく。
そもそも「現実」の大半は情報でできている。社会の出来事はメディアを通して知ることがほとんどだ。しかし、それが本当に正しいのか、全てを確かめることは、われわれには、できず、皆がそうだと言えば、それは「現実」になってしまう。
ドン・キホーテは決して死なない。今も昔も思い込みの正義を信じ、幸福を目指して騒ぎ立て、思いも寄らない惨劇を招いてしまう「みんな」の中に生きている。

1レコード表示中です 書評