home

ミステリの祭典

login
山師トマ

作家 ジャン・コクトー
出版日1955年01月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 クリスティ再読
(2018/03/08 23:15登録)
フランスの「前ハードボイルド小説」といった態の作品って、実は結構いろいろあるように思う(そのうち「超男性」したい...)のだが、これもその一つ。舞台は第一次大戦中のフランス、本作の主人公ギヨムは天性の冒険家であり、まだ子供でありながら年齢と身の上を偽って、軍隊に紛れ込んだ...赤十字活動を主宰する公爵夫人のみならず、その娘まで手玉にとって、ギヨムは熾烈な戦場を全速力で駆け抜ける、といった内容である。
ギヨムにとって「嘘」は自身の「自然」以外の何物でもない。だからその内面は、どこまでいっても仮面に過ぎない。そういう意味でこの作品の登場人物たちには、一切の内面がないのである。ハードボイルド、というのはそういう意味だ。
ただ、本作、全編これ警句、といった体裁

あらゆる人間は、その左肩には猿を、右の肩には鸚鵡を持っている。

やや作者自身が語りすぎているので、本作のハードボイルド性はかなり分かりづらいものに留まっている。それでも自らの死ですら「死の真似」と意図的に混同するようなギヨムの像こそが、内面をまったき外面として捉えるハードボイルドの先駆的な例となっているように評者は感じるのだ。

「弾丸だ」と彼は思った。「死んだ真似をしなければ殺されてしまうぞ」だが彼に在っては、架空と現実と二にして一であった。ギヨム・トマは死んだ。

1レコード表示中です 書評