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ミステリの祭典

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猿神の呪い

作家 川野京輔
出版日2003年04月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 人並由真
(2018/10/26 17:34登録)
(ネタバレなし)
 昭和三十年代半ば。広島の放送局「ラジオ日本海」の中堅プロデューサー、郡(こおり)英之(30歳)は、周囲に出没する謎の不審な男を警戒していた。郡はこれと前後して、大学の同窓生、猿田春彦と再会。名前まんまの猿顔で「モンキー」と呼ばれていた春彦は、今は島根県の奥にある山村・猿田集落にある実家に在住、土地の領主の末裔的な立場だった。その春彦が、自分はもうじき殺されてミイラにされると不穏な事を言い出す。郡は事情を確認するため、ラジオ局の業務を恋人ともいえる部下の美人アシスタントプロデューサー、岡山妙子(22歳)に任せて春彦とともに彼の故郷に向かう。だがそこで郡が出合ったのは、家屋の中で放し飼いにされる仔牛ほどにも巨大な老猿「五右衛門」だった。やがて春彦の実家、猿田家の周辺では、怪異な連続殺人事件が……。

 1953年に「宝石」で新人作家としてデビューし、その後、作詞家や放送作家としても活躍した作者の長編デビュー作。作者の著作は今年、論創から全二冊の『川野京輔探偵小説選』が刊行中で、評者はこれを機にこの人はどんな作家だろうとwebで調べたところ、本長編に行き当たった。
 この作品が単に旧作の長編というだけならばそれほど食指は動かないのだが、本作『猿神~』は1960年に地方新聞紙「島根新聞」に約半年にわたって連載。それから43年後の2003年に初めて書籍化されたという、ちょっと変わった経緯がある。物語の設定にも横溝のB級作品みたいな雰囲気もちょっと感じられ、これらもろもろの件から興味を惹かれて今回読んでみた。
(ちなみにすでに発売されているくだんの『川野京輔探偵小説選Ⅰ』は、まだ手に取っていない。)

 それで本作の中味の方は、一応はフーダニットの要素も加味した、いかにも昭和作品らしい伝奇スリラーミステリ。毎日の連載で読者を食いつかせなければならない新聞小説らしく矢継ぎ早に事件が起きるから、少なくとも退屈はしない。美人ヒロインでいかにも昭和の元気娘といった妙子が段々と存在感を増していき、事件に次第に深く関わってゆくのも娯楽読み物としてよろしい。
 まあ後半いきなり出てきてすぐ死んじゃう(中略)みたいなキャラなんか、いかにもイベントのためのイベント用に出したという感じだが(苦笑)。

 犯人捜しとしては、途中からもう悪役が歴然としてくる筋運びで、しかも最後にどう読者を驚かせにくるのかもおおむね早めに読めてしまう。しかも作中のリアルを考えるなら、真犯人の行動(殺人の仕方もふくむ)は壮絶にトンデモであり、要するにバカミス度も高い。
 とはいえ当時の新聞読者には好評だったというから、往年の昭和スリラーのわかりやすい実作サンプルにひとつ触れるという意味では、今でもそれなりの価値はある作品……だろう。たぶん。

 ちなみに21世紀の時点から連載当時を回顧した作者の後書きはなかなか興味深いが、本書の巻末周辺に、作品本編を読む前に目にすると大きなネタバレになってしまう部分があるので注意。そこらは先に中味を読んでから、紐解くことをお勧めする。

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