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ミステリの祭典

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裏切りへの道

作家 エリック・アンブラー
出版日1957年12月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 クリスティ再読
(2018/02/10 23:37登録)
アンブラー戦前の巻き込まれ型スパイスリラー。新規に就職した先からミラノに赴任した、制作用機械のエンジニアである主人公は、自分が扱うのが兵器を作るための工作機械であることを知る。ファシスト政権下のイタリア、である。機械の売込みも政治や謀略とは決して無縁ではなかった。主人公の部下は黒シャツの一員で主人公を監視しているようだし、ユーゴの将軍を名乗る怪しい男、ソビエトのエージェントらしき男らが、主人公に接触してきた。ユーゴの将軍は主人公にちょっとした情報の横流しをするかわりに、売り上げのためにイタリアの高官を買収する手づるを提供しようと持ち掛けてきた...
なのでちょっと産業スパイものと政治的な謀略が絡み合ったような面白さがある。アンブラーってビジネスをリアルに描ける作家だから、ここらと独伊枢軸でキナ臭い情勢とをうまく絡み合わせて背景を作っている。ファシスト大行進を利用して尾行を捲くとか、今になって読むと結構目新しい。「ああうるわしの若き日や/花咲く春のひとときぞ/ファシズムこそがわが希望/民衆の自由をもたらさん」なんて歌われてたようだよ。このユーゴの将軍ていうのが老人の軍人で、実はナチのエージェントのようなんだが、お化粧してるとかね、19世紀的なプロシア軍国主義を引きずったグロテスクなキャラでなかなか、イイ。ブラック将軍だなあ。
で、本作、ソビエトのエージェントが善玉で、主人公を助けてイタリアから脱出するのを手伝う。前半は主人公と組んで、将軍に偽情報を流すとかしたあと、後半は当局に指名手配された主人公のイタリア脱出行を共にする。なので前半は産業スパイ風の二重スパイもの、後半は冒険小説、といった印象。戦後のアンブラーは型にハマらない国際謀略ものに進化するんだが、戦前は割と穏当なアクションスリラーといった雰囲気だ。本作のあとに、独ソ不可侵条約が結ばれたのを見て、アンブラー、ソビエトに幻滅するわけで、戦前最後のスパイスリラーになる「恐怖への旅」だと、主人公を助けるのは情けない印象の空想的社会主義者になってしまう..

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