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ミステリの祭典

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ハプスブルク帝国

作家 岩崎周一
出版日2017年08月
平均点9.00点
書評数1人

No.1 9点 小原庄助
(2018/01/17 11:47登録)
「ごちゃごちゃ」した歴史が好きな人は存外多いらしい。系図や地図が出てくるだけでワクワクする私もその一人だ。しばしば「栄光の」「華麗な」という形容詞とともに語られるハプスブルク家の帝国がたどった約千年の歴史を描いた本書は、そんな人たちにおあつらえ向きの一冊といえる。
現在のオーストリア、チェコ、ハンガリーを中心に、一時その領土はスペイン、オランダ、ドイツ、イタリア、中南米までに拡大。大航海時代、ルネサンス、宗教改革、フランス革命とナポレオン戦争、ドイツ帝国成立、第一次世界大戦と、近世以降の欧州が経験した大事件のほとんどに主要プレイヤーとして関わっているのだから、その歴史が「ごちゃごちゃ」していないわけがない。
本文400ページ超と新書としてはボリュームがあるが、最新の知見をふんだんに盛り込みつつ、同時代の社会や文化にまでバランス良く目配せした濃密な記述に、むしろ良くこの分量に収まったなと驚かされる。じっくり取り組めば、「ごちゃごちゃ」好きには至福の時間になることは間違いない。
指導者たちが心を砕き続けたのは、広大な領土に組み込まれた、独自の法や制度を持つ多数の国や領邦、民族に対して帝国がどう関わっていくのかということだった。
フランス革命などの影響を受け、リベラリズムとナショナリズムの動きが噴出し始めた19世紀以降、集権化と分権化の間でも策を重ねるが、最終的に第一次世界大戦の敗北により解体に至った。それは、統合の理想が揺らぎ、移民排斥や独立運動が活発化する現在の欧州を考える上でも示唆に富む。現実はいつだって「ごちゃごちゃ」しているのだから。

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