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ミステリの祭典

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征服者ロビュール
征服者ロビュールシリーズ

作家 ジュール・ヴェルヌ
出版日1993年07月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 Tetchy
(2018/01/15 23:43登録)
これは空版の『海底二万里』とも云うべき作品だ。潜水艦ノーチラス号に対して空中船<あほうどり号>。ネモ艦長に対して国籍不明の技師ロビュール。『海底二万里』の海底の旅に同行するのは海洋生物の権威アロナックス教授に対し、本書は気球研究の権威アンクル・プルーデント氏とフィル・エヴァンズ氏、とほぼ両作は空と海を舞台を異にしながらも写し鏡のような作品である。

本書はまだライト兄弟1903年に有人飛行機を発明する以前の1886年の作品。従ってロビュールが操る空中船は飛行機の意匠ではなく、船に無数のプロペラを備えた、ゲーム『ファイナル・ファンタジー』に登場する飛空艇をイメージしたような機械である。

『海底二万里』に登場するネモ船長に比肩するほどの存在感を示すロビュールだが、ただ世間一般に今なお知られている『海底二万里』と比較すると、同じように世界中を空中船で回る本書の知名度が低い、いやほとんど知られていない。それは物語に膨らみが無いからだ。
『海底二万里』は530ページ超もあるのに対し、本書は240ページ超と約半分。ページ数がそのまま内容の充実ぶりを示すわけではないが、本書もアメリカを皮切りに日本、中国、エベレスト、中東、ロシアにヨーロッパ、アフリカ、アルゼンチンから南極―ノーチラス号も行った南極点にも到達する!―、ニュージーランド付近へと世界を巡るのに、それぞれの道中は実に速く、旅行期間も1月半と短い(因みに『海底二万里』は10ヶ月弱)。
ある意味これは飛行旅行の速さを物語のスピード感で表しているとも取れるが、内容的には実に味気ない。

さて皆の前から姿を消したロビュールが再度姿を現すのは『世界の支配者』という作品のようだ。現在絶版のこの作品が、同じく絶版でありながら地元の図書館にあった僥倖に見舞われたことで読むことが出来た本書同様に読むことが可能であれば、彼の行く末を見届ける意味でも読みたいものだ。

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