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ミステリの祭典

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夜明け前

作家 島崎藤村
出版日1950年01月
平均点10.00点
書評数1人

No.1 10点 小原庄助
(2018/01/12 10:05登録)
大学生になったころ、読んでみたのだが、どこか陰鬱な感じがするだけで、少しも面白くなく20ページもいかないうちに断念した記憶がある。
今回、再び手に取って読みだすと、時のたつのも忘れて読みふけった。興にのるとはまさしくこのことだという思いだった。若いころ抱いた陰鬱さは、積み重ねてきた人生の経験でかき消されているかのようだった。
幕末・維新といえば、西郷隆盛、坂本龍馬、高杉晋作らが活躍する華々しい物語を想像しがちである。それらを描いた司馬遼太郎氏の一連の作品は読んでいたし、司馬史観の卓抜さには学ぶことも多々あった。だがこの作品には、それらともまた違った圧倒的な史実や記録の重厚さが感じられた。
舞台は木曽路の馬籠。京都や江戸から遠く離れていても中山道の宿駅であるから中央の時勢は伝わってくる。ペリー来航以来、尊王攘夷と公武合体、さらに欧化派と国粋派の思惑がうずまくなかで、本陣の床屋である青山半蔵は神道を奉じ、古き良き日本の復活を夢見る。だが理想と現実はかけ離れていくばかり。
主人公は藤村の父をモデルにしているが、ここは無名の知識人が、歴史の荒波に翻弄されながらも、多感にして篤実に生きていく様が描かれている。
日本の歴史文学の最高傑作であるばかりか、トルストイの「戦争と平和」に勝るとも劣らない世界文学の名作だと思う。

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