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ミステリの祭典

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盟三五大切

作家 鶴屋南北
出版日2017年08月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 クリスティ再読
(2018/01/02 18:24登録)
ミステリファンの間ではおそらく「ドグラマグラ」の映画の監督として知られているであろう松本俊夫先生が今年(2017年)亡くなられた。評者は松本先生にはいろいろお世話になった。なので、本年ちゅうに本作の評を書いて追悼の意を表したい。本作は松本俊夫監督作品「修羅」の原作になる。
「かみかけてさんごたいせつ」と読む。大江戸ノワールって考えてみたときに、評者のイメージに浮かぶのはまさに本作である。映画「修羅」では江戸の闇の深さ、電灯以前の夜の恐ろしさを描ききっている。映画ではカラーで大きな太陽が沈むところから始まる...それからの2時間、陰影の強いハイコントラストなモノクロームの世界が続く。
浪人薩摩源五兵衛、実は赤穂浪人不破数右衛門は、藩の金庫番でありながら盗賊に百両を盗まれて、その咎を得て浪人していた。松の廊下事件による赤穂取り潰しの後、仇討の計画を聞いた源五兵衛は、仇討に参加したいのだが自身の失敗を取り返さなければ、仇討参加もかなわない...そんな状況で、伯父の助右衛門が百両を都合してきた。それを知った源五兵衛が入れあげている芸者小万とその内縁の夫三五郎は、一芝居打ってその百両を奪う計画を立てた。三五郎にもどうしても百両が必要な理由があったのである。
この芝居はハマり、激情に駆られた源五兵衛はその百両を小万の身請け代として使ってしまう。晴れて小万と所帯を持てる、と思いきや、三五郎が自身が夫である事を明かし、美人局にかかったことを源五兵衛は知るのであった。その夜、三五郎夫婦は芝居の協力者たちと飲み明かしていたのだが、そこを源五兵衛が襲う。5人が斬られるが小万と三五郎は辛くも逃れる。
逃れた三五郎夫婦の新居に三五郎の父了心が現れ、主筋への忠義のために奪った百両を渡して、勘当を解いてもらう。その後そこへ源五兵衛が現れるが、いたって穏やかな様子である。不審には思うものの、番所に通報して捕えてもらうように手配するが、源五兵衛の若党八右衛門が罪を自白して捕えられていく...源五兵衛は持参の酒を置いていくが、その狙いは何か?
と、歌舞伎の台本とは思えないほどの、サイコホラー系サスペンスである。もちろん酒は毒酒で、居合わせた小万の兄弥助がそれを飲んで死ぬし、源五兵衛が再訪して...で乳飲み子を含むほとんどの登場人物が死ぬ大残虐絵巻になる。三五郎の忠義もただただ大虐殺を引き起こしただけだったのだ。この空しさ、ハードボイルドさは何だろうか。本作くらい「大江戸ノワール」の名を献上すべき作品はないように感じる。
最終的に百両を手に入れた源五兵衛は、晴れて義士たちの仲間入りをして、今の価値観で見ればかなりの不条理な結末で幕なのだが、映画はそれを否定して江戸の暗闇に消えていく。
「ドグラマグラ」を見る人も多いだろうけど、日本のアヴァンギャルド映画に巨大な足跡を残した松本俊夫の作品にハズレはないです。南北の歌舞伎戯曲を「ミステリの祭典」で紹介するのはネタかもしれないが、サイコホラー系サスペンスなことは間違いない作品です。歌舞伎台本でも世話物だったらそう読みづらくないし、白水社の「歌舞伎オン・ステージ」という台本集シリーズで読んだが、細かく語句注がついているから、そう敷居高くないです。

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