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ミステリの祭典

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復讐(ヴェンデッタ)

作家 マリー・コレリ
出版日1957年01月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 クリスティ再読
(2018/01/02 18:13登録)
乱歩の「白髪鬼」の元ネタ(涙香)の元ネタである。19世紀末のイギリスの大流行作家だったマリー・コレリの本作というと、創元社の「世界大ロマン全集」に収録されている。このシリーズは創元推理文庫のミステリの一部(こっちは「世界推理小説全集」の担当が多いが、カーの「髑髏城」とか「月長石」は大ロマン)とそれ以外の大部分のベースになったものなのだが、本作は残念ながらここで訳されたのが最後である。訳者は平井呈一で、主人公は伯爵なのに言葉遣いが妙にべらんめえである。そういやこの人「Yの悲劇」の訳もあるなぁ。どうせ読むなら平井訳を探そうか...べらんめえなドルリー・レーンもまた一興。
で乱歩の白髪鬼だと、自身が殺意をもって崖から突き落とされるが、本作は偶然日射病で仮死状態になったのが、コレラの流行の真っ最中だったのでそれと誤認されて埋葬される。だから、純粋に妻の姦通と友人の友情の裏切りに対して復讐するのである。また復讐手段も、わざと挑発して決闘で殺す・身元を隠してプロポーズして結婚式の夜に真相を明かす、と完全に合法的で道義的問題はともかく、いわゆる「犯罪」は少しもからまない。だから乱歩独特の陰惨さみたいなものは、本当に乱歩のオリジナル要素で、「ヴェンデッタ」は姦婦姦夫にスケールダウンした「モンテ・クリスト伯」みたいなものである。犯罪者の陰はなくて、貴族的な誇りをもった漢らしいヒーロー性がある。
本作(というか涙香版)を乱歩は作家として立つ前によほど愛好したとみえて、「早すぎた埋葬」と「墓から蘇る男」「極限体験で総白髪になる」という乱歩ガジェットのソースを、かなりの部分本作が担っている(まあポーもあるけど)。乱歩の姦夫殺しのガジェットで印象的な部分も、姦婦側で出てくるから、ホント本作は乱歩の「デザインソース」としか言いようがないなぁ。
逆に乱歩が採用しなかった要素、3歳の娘が夫婦の間にいて、主人公の「死後」ネグレクトされて病気で死ぬのが結構泣ける演出があるし、主人公をサポートする従僕がなかなかイイ奴だとか、20世紀にジャンル細分化される前の、19世紀の大衆小説の大らかな「大ロマン」を体現しているかのような小説である。ノンキに読むにはなかなか、いいものだ。

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