アントニイ・バークリー書評集Vol.5 三門優祐・編訳 |
---|
作家 | 評論・エッセイ |
---|---|
出版日 | 不明 |
平均点 | 7.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 7点 | おっさん | |
(2017/12/30 14:20登録) 第二十三回文学フリマ東京(2016/11/23)で頒布された第五巻は、「英国男性ミステリ作家編」の下巻。『ガーディアン』紙の新刊月評コーナーで、アントニイ・バークリー(フランシス・アイルズ名義)が1963年1月から1970 年10月まで執筆したぶんを対象とし、該当する作家の書評を編訳者の三門優祐氏が抽出したものです。 お楽しみの巻頭エッセイは、評論家・法月綸太郎の読み込みの深さを見せつける(こういうのを読んでしまうと、レヴューと称して薄っぺらな文章を投稿するのが恥ずかしくなる)「晩年のバークリー」。いずれ、同氏の著作に収録される日も来るでしょうから、法月ファンならずとも、バークリーに興味のある向きは、タイトルだけでも覚えておいて下さい。個人的には、「(……)都筑道夫の冷淡な態度が、日本でのバークリー評価の遅れを招く一因となったことは否定できないと思う」というくだりに、いろいろ考えさせられるものがありました。 さて。 取り上げられた59名の作家を、例のごとくラストネームの五十音順に並べてみましょう(カッコ内は今回のレヴューの総数)。 アーサー・アップフィールド(2)、マイクル・イネス(5)、クリフォード・ウィッティング(1)、ジョン・ウェイクフィールド(1)、ジョン・ウェインライト(3) グリン・カー(2)、ヘロン・カーヴィック(2)、ハリー・カーマイケル(1)、マーティン・カンバーランド(3)、H・R・F・キーティング(5)、ヴァル・ギールグッド(4)、マイクル・ギルバート(4)、ダグラス・クラーク(1)、ジョン・クリーシー(7、うちJ・J・マリック名義6)、V・C・クリントンーバデリー(4)、モーリス・クルパン(4)、ブルース・グレアム(1)、S・H・コーティア(2)、ベルトン・コッブ(5) ロジャー・サイモンズ(2)、ルイス・サウスワース(1)、サイモン・ジェイ(1)、ロデリック・ジェフリーズ(14、うちジェフリー・アシュフォード名義6、ピーター・アルディング名義3)、ハミルトン・ジョブソン(1)、ジュリアン・シモンズ(4)、ヘンリ・セシル(2) D・M・ディヴァイン(6、うちドミニック・ディヴァイン名義2)、ウィリアム・クロフト・ディキンスン(1)、ピーター・ディキンスン(3)、ジョセリン・デイヴィー(1)、L・P・デイヴィス(2)、サイモン・トロイ(3) サイモン・ナッシュ(1) コンラッド・ヴォス・バーク(5)、スタンリイ・ハイランド(2)、S・B・ハウ(2)、デンジル・バチェラー(1)、ジェラルド・ハモンド(2)、バーナード・ピクトン(1)、ジョン・ファウルズ(1)、ナイジェル・フィッツジェラルド(2)、クリストファー・ブッシュ(3)、レオ・ブルース(8)、ジョージ・ブレアズ(7)、ニコラス・ブレイク(3)、モーリス・プロクター(5)、ヴァーノン・ベスト(1)、キース・ヘンショー(2)、ジェレミー・ポッター(2) マーク・マクシェーン(1)、フィリップ・マクドナルド(1)、ジョージ・ミルナー(1)、ローレンス・メイネル(3)、ビル・モートロック(1)、 ピーター・ラヴゼイ(1)、ダグラス・ラザフォード(3)、アントニイ・レジューン(3) ダグラス・ワーナー(2)、コリン・ワトスン(3) “黄金時代”を担った書き手が、じょじょに退場していき(前巻に見られた、F・W・クロフツ、ヘンリー・ウエイド、ジョン・ロードらの名前は、もうありません)、昔ながらの探偵小説をレオ・ブルースやベルトン・コッブ、ジョージ・ブレアズ――求む邦訳、論創社さん!――といった書き手がほそぼそと書きついではいるものの、同時代の、スリラーや犯罪小説の質的変化を前にすると、物足りなさは否めない。そんななか、パズルのプロッティングとキャラクタライゼーションを高いレベルで両立させたD・M・ディヴァイン(「もはや現代推理小説の頂点を占めていると言っても過言ではない存在」)が、当然のように評価を高めています。 そして、本書の書評のなかでも、ジョン・ファウルズの傑作『コレクター』(誘拐・監禁事件を素材にしているとはいえ、発表当時、この長編は、おそらく文学枠だったはず。しかし、これを「フランシス・アイルズ」がミステリ・サイドに取り込んで評価する気持ちは、凄くよく分かる)に対する、それと並んで、白眉と言えるのが――前掲の法月エッセイで指摘されていることの、繰り返しでしかなく、恐縮至極なのですが――新星ピーター・ラヴゼイのデビュー作『死の競歩』(1970)への絶賛でしょう。この翌年に、バークリーは世を去っているんだよなあ。バトンが、灯火が受け継がれる瞬間を、さながら目撃したかのような感慨があります。 本巻をもって、「英国ミステリ編」は終了なのですが…… じつは英国のミステリ作家でも、冒険小説、スパイ小説のジャンルで活躍した面々は、別枠となっています。そちらはまた、来年2018年の投稿でご紹介することにしましょう。 それでは皆様、良いお年を! |