侵蝕 壊される家族の記録 『寄居虫(ヤドカリ)女』を加筆・修正の上で文庫化 |
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作家 | 櫛木理宇 |
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出版日 | 2014年08月 |
平均点 | 6.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 6点 | メルカトル | |
(2017/12/24 21:47登録) 幼い弟の事故死以来、沈んだ空気に満ちていた皆川家の玄関に弟と同じ名前の少年が現れた。平凡な女子高生の美海の母は彼に同情し家の中に入れてしまう。その後少年の母親と名乗る、白ずくめの衣装に肘まである手袋、白塗りの厚化粧の女が皆川家に寄生し始める。 単行本『寄居虫(ヤドカリ)女』を加筆・修正の上文庫化された作品を読みました。 薄汚れた服を着、やせ細った少年朋巳や、厚塗りの化粧で正体不明の女葉月が平凡な一家に「侵蝕」していく様は、内心そんな馬鹿な、所詮絵空事だろうと思いながらも、リアルな描写力に圧倒されて思わず知らず物語に入り込んでしまいます。 じわじわと父親の不在がちで母親と三人姉妹の皆川家の心の中に侵入し、マインドコントロール或いは支配していく巧妙な手口には、嫌悪感を通り越して感心すら覚えます。そして次第に家族は崩壊し、やがては姉妹同士で監視し合うという究極の末路を迎えようとします。 ここまでは不気味で陰湿なホラーそのものですが、終盤突如としてミステリの趣向が前面に押し出されます。これまでの話は何だったのかと思わせるほど、読者を翻弄し欺きます。伏線を回収し、謎であったり怪しげな挙動だったり、過去の事件などもひっくるめて見事に全てをひっくり返します。いわゆるどんでん返しとはまた一味違った形での衝撃が読者を襲います。 興味のある方は読んでみるのもいいかもしれません。ホラーも好き、本格も好きという方にお勧めです。 |