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ミステリの祭典

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けものの街

作家 ウィリアム・P・マッギヴァーン
出版日1963年01月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 クリスティ再読
(2017/12/10 14:17登録)
海外作品は「社会派」がないので困るんだけど、本作は「社会派」としか言いようのない作品。マッギヴァーンって言うと、頑固なまでにシリーズキャラクターを作らない作家なのだが、それは主人公の「モラル」への関心が強いがためなのだ。毎回マッギヴァーンの主人公たちは、ユニークで厄介な「道徳的なトラブル」に遭遇する。個々に抱えたモラルの問題がそれぞれユニークで、そのため「不変の正義」を主張しうる「ヒーロー」であることを阻む..そういう事情である。
本作の主人公は、郊外の分譲住宅地に住まいを定めた中流ホワイトカラーである。日本でも、分譲住宅の住人と市営団地の住民、あるいは地元の村落の人々との「階級的」な軋轢のようなものに遭遇した経験がある方もおられることと思う。本作だと、スラムのような古い住宅地に前から住んでいる住人と、ホワイトカラー向けの分譲住宅を買った新しい住人たちとの間で、アメリカだからそれこそギャング顔負けの抗争が起きてしまう話である。
発端は主人公たちの側のローティーンの子供たちが、スラムのハイティーンの少年たちに恐喝されて、親の金をくすねることから始まる。子供を守る気持ちの強いミドルクラスの親として、警察に届けはするのだが、警察もあまり有効な手は打ちづらい...で、主人公たちは対策を相談するのだが、地元の運送業者が助太刀しようと申し出る。この運送業者が一本独鈷の自営業者らしく、いかにもアメリカ保守の独立自尊ベースの自警団的な体質の男だった。その影響を受けてホワイトカラーの主人公たちも、子供の交通事故などもあって、ついつい暴力的な対応に出てしまう。
実は子供たちの恐喝トラブルも、分譲地の親が過剰な心配をして、それまでスラムの子供たちが遊んでいた少し危険な池を埋め立てたことの「補償」のようなことから始まっていたようで、全面的にスラムの子供たちが悪いわけではない。しかし「非行少年」のレッテル貼りもあって、ミドルクラスの主人公たちはついつい色眼鏡と誤解から、過剰な暴力的手段に出ることになる....その中で、主人公サイドの方こそがイイ齢のダンナ方であるにもかかわらず、ついつい獣性を発揮することになってしまうのである。
主人公たちは「正義と家族の安全を守る」大義名分のもとに、とんでもないトラブルに自ら飛び込んでいってしまったのだ。まあだから本作は本当は非行少年モノではなくて、そういうアメリカの「ミドルクラスの罪」を描いた作品で、ミステリかどうかはかなり微妙。それでも「主人公のモラル」を巡るマッギヴァーンの作家的一貫性がちゃんと窺われて、評者は本作が好きだ。

追記:そういえば本作ってアメリカの真面目版「三丁目が戦争です」だ。

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