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ミステリの祭典

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僕が殺された未来

作家 春畑行成
出版日2017年08月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 人並由真
(2017/11/25 11:07登録)
(ネタバレなし)
「僕」こと21歳の大学生・高木は、同じ大学のミス・キャンパスである美少女・小田美沙希に片思いしていたが、ある日、その彼女が謎の失踪を遂げる。誘拐の可能性もふくめて事件性が高まるなか、高木の前に現れたのは60年後の未来から来たと称する15歳の愛らしい少女・大塚ハナだった。未来人の存在を疑う高木に対して、ハナは翌日の出来事を言い当てて自分の真性を証明。そんなハナは、現在の高木が小田美沙希の誘拐事件に巻き込まれて、彼女ともども近々に死ぬ運命にあると告げた。未来の史実でも殺人誘拐事件の犯人は迷宮入りであり、高木は自分と小田美沙希の命を守ろうと決意。真犯人と事件の真実を探って、ハナとともに奔走するが。

 ほとんどラノベ風にさらりと読めるタイムトラベルSF風の青春ミステリ。正直、ミステリとしてはきわめて曲のない作りで、そっちの意味では思っていた以上に楽しみ所がない。(ちなみに169頁になってようやっと主人公のフルネームが明かされ、その叙述がその後に続く展開は何だかなあ、って感じ。いや最初から明かしていたら読者に気づかれるのはわかるけど、今回の場合、正にその程度のネタだよ。)
 21世紀の現在形青年の高木がごく自然に『101回目のプロポーズ』ネタを口にしたり(こういうのって「いつか再放送で観た」とか入れるべきだよな)、随所の時代感覚も若者向けの作品としてはどうも古い。高木を相手にする同じ対話者の呼び方が特に意味も無く「高木さん」「高木くん」と入り混じるとかのあたりも、作者本人なり編集者なりが最後まで推敲すべきだったんじゃないかと。
 ただまあ主人公の高木とハナ、それからヒロインのキャラクターはそれなりに好感が持てる。タイムパラドックスについてのロジックも特に新しいものはないけれど、丁寧に作中で言及され、その辺も悪くない。昭和の佳作の小品という印象の一冊。

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