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ミステリの祭典

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大江戸釣客伝

作家 夢枕獏
出版日2011年07月
平均点8.00点
書評数1人

No.1 8点 小原庄助
(2017/11/17 10:42登録)
江戸時代は大変な釣りブームであった。武士から庶民まで、われもわれもと釣りに出掛けた。釣りの入門書、釣技の秘伝書、釣場案内、魚料理の本などが数多く書かれ、釣り針なども魚種ごとにさまざまなものが作られていた。すぐ目の前に、豊富な魚介類に恵まれた江戸前の海があったればこそである。
本書は17世紀後半から18世紀までの、江戸の町と海を舞台に、釣客すなわち釣りに興じた人々を描いた物語である。史実と虚構を織り交ぜ、実在の人物を配しながらのミステリであるとともに、元禄期の時代相や当時の釣りの模様を記すエッセーであるという、なかなかユニークな作品である。
物語は、小舟でキス釣りに出た宝井其角と多賀朝湖が、釣りざおを握った老人の土佐衛門を釣ってしまうところから始まる。やがて津軽采女が登場し、紀伊国屋文左衛門や吉良上野介義央、水戸光圀、さらに徳川綱吉らが話に絡んでくる。采女は、実在の四千石の旗本で、わが国初の詳細な釣りと釣り具の解説書「何羨録」を著した人物である。
物語の背景にある二つの歴史的な事件も、分かりやすく語られる。一つは1684年の大老堀田正俊暗殺事件。もう一つは殿中松之廊下の刃傷に始まる赤穂事件。いずれも綱吉の治世で、江戸城中で起こった事件だが、物語にどう絡むのかは、ぜひ本書をお読みいただきたい。
本書の核心は「何羨録」に先立つ幻の釣技秘伝書とされる「釣秘伝百箇條」の作者、投竿翁についての部分である。投竿翁とは何者なのか・・・。
本書は主に、キスとハゼの江戸期の釣りを記すが、釣りファンであれば読み進むに従い、早く竿を握りたくてむずむずするに違いない。

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