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ミステリの祭典

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裏切られた夜

作家 ジョイス・ポーター
出版日1990年10月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 クリスティ再読
(2017/11/15 00:17登録)
リンダ・ハワードなんてやっちゃった余勢を駆ってジョイス・ポーター作の本作はどんなものか。
かつて駆け落ちした男はソ連のスパイだった! 大使の娘アンは、結婚するつもりだった男に殺されかけるが、九死に一生を得て救出される。その8年後、当のその男ロゼルが、アメリカへの亡命を希望して、産業スパイの身元を明かす手土産とともに、ソフト会社経営者のニックに接触した。大物スパイのロゼルの亡命希望に、CIAも色めき立ち、社内の裏切り者を知りたいニックと共同して、ロゼル亡命作戦を立案する。しかし大物スパイ・ロゼルの顔を知っている者は誰もいない...アンを別にして。ロゼルの亡命は罠か、それとも本当か。ブリュッセルの国際会議を舞台に準備は次第に整っていく。亡命の現場でニックとアンはロゼルと接触するが、その場が謎の人物によって襲撃された! 意識を失ったロゼルを収容し、ニックとアンは追っ手を逃れてフランスへと...
はい、梗概をまとめて改めて感じるけど、ちゃんとしたスリラーになってるよ。8年前の出来事の時間軸と、ブリュッセルから最終的にチューリッヒに至る空間軸をうまく交差して広がりを持たせているし、何と言ってもキモは、自分を殺そうとした男の身元を確認できるのは自分だけ、というサスペンスの引っ張り方である。向こうも果たして自分に気が付いてるのか? また今の恋人であるニックとのさや当て如何、とかそういう射程の短い興味と、亡命の裏にある狙いを巡る全体的な謎と、うまくバランスが取れていて面白い。なかなかの秀作だと思う。
で、何だけど、本作は「ジョイス・ポーターの作品」ということになるのだが、ハーレクインなんだよね。ジョイス・ポーター自身「なまけスパイ」のシリーズがあったりするし、本人も若い頃イギリス空軍でスパイの養成に当たった経歴がある人だから、こういうスパイ小説を書いても全然不思議じゃないのだが...でいろいろ調査してみたのだが、本作の作者があのジョイス・ポーターなのか、結論を先に言うと「よくわからない」。ややこしいので、ここからは「ドーヴァー警部モノを書いたジョイス・ポーター」を「ドーヴァーさん」と呼ぶことにしよう。
日本のWikipedia の記述では、本作をドーヴァーさんが書いたことになっているが、英語版ではまったく無視されている。根拠は不明だが「ミスダス」では同名異人にしているし、「aga-search」では「その他の翻訳作品」として真作扱い。本書では娘のロマンス作家デボラと共著の「Deborah Joyce」名義がある、と作者紹介がされ、この名義は5作ほど確認できるが、やはりミステリorスパイ小説風の作風が多い。しかも amazon の洋書では書影に「Joyce Porter」と書かれているにも関わらず作者が「Tracy Porter」となっているありさまだが、これはamazon のミスだろう。ロマンス小説側は、どうも作者情報がしっかりしてないようだ。それでもドーヴァーさんが書いた、という消極的な証拠みたいなものはあって、ドーヴァーさんの没年以降には、Joyce Porter も Deborah Joyce も Deborah Bryan も活動がパタッと止まっていることである。Deborah Joyce の作風と合わせても、けっして矛盾が起きているわけではないのだ....
ごめん、降参だ。わからない。どうもハーレクインは「翻訳小説の魔界」と言っても過言じゃなそうだ。作品以上に謎だね、「ジョイス・ポーターの謎」は。

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