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ミステリの祭典

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夜風のベールに包まれて

作家 リンダ・ハワード
出版日2012年02月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 クリスティ再読
(2017/11/05 15:03登録)
アトランタのウェディング・プランナー、ジャクリンが今まで遭遇したなかでも、最悪のブライジーラ(結婚式に夢を求めすぎて周囲にトラブルを巻き起こす勘違い花嫁をゴジラに見立ててこう呼ぶそうだ)がキャリーだった。打ち合わせの最中にキャリーから平手打ちにされ、契約を解除されたジャクリンは、貸会場を後にするが、その直後キャリーはケータリングのケバブの串によって殺害されているのが発見された。捜査が始まり、容疑はジャクリンにもかかったが...
と書くと、殺人があって捜査があって、ちゃんとミステリ、でしょ。実は本作はハーレクインに代表される女性向けロマンス小説だったりするのだ。まあ女性は一般にミステリ好きだからね、このジャンルもミステリ仕立てというのは非常に多いのだ。本作の作者は、その業界では「女王」と呼ばれるくらいの人気作家でしかもミステリ仕立ての得意な作家だ。キャラの性格付けをするエピソードを作るのが非常に上手で、どのキャラも印象によく残る。ヒロインのジャクリンも嫌味なく「仕事のできる女」だけど、対男性はややコジらせ気味。それに対してヒーローは捜査に当たる刑事エリック。男らしくワイルドなのが売りだが、ロマンス小説だからか結構洒脱な印象がある。コーヒーを買いに行くと連続して強盗に遭遇し連日の緊急逮捕とか、TVドラマ風のコミカルさも見せる。
あ、ミステリとしては犯人はそう意外でもトリックがあるわけでもなし。それでも真犯人がジャクリンに目撃されたのを口封じするために襲撃するアクションもあって、サスペンスはちゃんと書けている。何やかんや言って、読者の気を逸らさない腕前は確かで、人気のほどは頷ける達者さだ。エンタメとしては十分合格の部類だが、ミステリを期待するのは何だ...という気もするが、本作は本来のファンに言わせると「力が落ちた」と言われる部類のものだそうだ。それでもジャクリンが引き受けたのを後悔した「田舎のヤンキーな結婚式」が実は実はの大盛り上がりのイイ結婚式になるエピソードなんぞ、小説のうまさを感じさせる筆力があるのは確か。
(ちょっとマジメな書評が続いたので、気分転換にネタを提供。ハーレクインなどの女性向けロマンス小説業界は、初版のみ売り切りで、再版重版なしという過酷な「読み捨て」の世界のようだ。そんな中で「女王」と呼ばれるのは結構スゴいことのようにも感じるよ。そういえばドーヴァー警部で有名なジョイス・ポーターに「裏切られた夜」というハーレクインがある。この人の娘もロマンス作家だそうだ。)

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