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ミステリの祭典

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木足の猿

作家 戸南浩平
出版日2017年02月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 人並由真
(2017/10/01 23:42登録)
(ネタバレなし)
 大政奉還の余熱がまだ冷めやらぬ明治九年の九月。東京の一角で英国人が殺害され、その首を斬られる事件が生じた。やがて事態は同様の手口で連続する英国人の殺人事件へと発展していく。同じ頃、左足が義足の居合の達人・奥井隆之は、刎頸の友・水口修二郎の仇を追っていた。仇は元・同じ藩の藩士・矢島鉄之進で、すでに奥井の追跡行は17年目の長きに及んでいた。そんななかで奥井はなりゆきから、巷を騒がす英国人連続殺人事件の謎を追うことになるが。
 
 光文社主催の<日本ミステリー文学大賞新人賞>その第二十回受賞作。
 webで評判がいいので一読してみた。
 うん、文明開化の新しい時代を迎えながら、いまだ士農工商の身分制度や武士の矜持、さらには元・間者(忍者)としての出生から逃れられない不器用な人間たちの姿が、主人公の奥井をふくめて丁寧に描かれている。特に奥井が出会う、名も知れぬ(あるいはそれに近い)サブキャラクターの叙述など、それぞれがなかなか印象に残る。ふだんは時代小説をあまり読まない自分だが、たぶんそっちの分野のなかでも、これは現在形の新作として、それなり以上に読み応えのある内容だろう?

 ただしミステリとしては仕掛けが当初から見え見えで、正直、底が浅い。英国人連続殺人の実態も21世紀の作品としてはお寒い真相で、現在形のミステリとしてはかなりキツイ。
 とりわけ個人的に不満なのは、どうも作者の心構えに勘違いがあるようなこと。
 せっかく<日本ミステリー文学大賞新人賞>に応募しながらミステリとしてはあまり手の込んだものを作る裁量がなかったためか、<昔からある様式>の<ある種のスタイルの作品>をまとめましたという感じのところだ。なんつーか「こういうお話はこういう結末になるのはお約束だから、ミステリ読者全般の方々もこれで納得してください」と言いたげな作劇とクロージングで、それってズバリ試合放棄でしょう、という実感である。
 
 切なくセンチメンタルな時代小説としてはそれなり以上に楽しめたんだけどね。ミステリとしては、いろんな意味であまり良い点はあげられません。

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