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ミステリの祭典

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吸血鬼の島 (江戸川乱歩からの挑戦状―SF・ホラー編)
江戸川 乱歩・著、森 英俊& 野村 宏平 (編集)/明智小五郎&少年探偵団

作家 江戸川乱歩
出版日2017年06月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2017/09/29 11:08登録)
(ネタバレなし)
 乱歩による戦後の「少年探偵団」シリーズにおいて、最初のそして最大のフランチャイズだった光文社の月刊誌「少年」。その「少年」誌にシリーズ本編と並行して昭和29年~38年に掲載された、乱歩名義による「少年探偵団」もの、またそれ以外の<クイズ読み物>形式の作品群17編を集成したもの。
 この乱歩のクイズ読み物の集成は、数巻の刊行が予定されており、その初弾にあたる本書は<SF・ホラー編>として、スーパーナチュラル要素や怪奇趣味の強い作品を主軸に、変わったものでは西部劇風、捕り物帳風の連作ものまで収録してある。
 なお本書編纂のベースになった古書は、大型古書店「まんだらけ」の膨大な蔵書(売り物として整理中のもの)によるようで、当時の雑誌版の挿し絵まで復刻という実に嬉しい作り。
 ちなみにこのクイズ形式の作品群の実際の執筆は乱歩本人ではないらしく、名義を貸与された複数作家のようだが、現状ではその正体はしれない。

 収録作品にも長短の差があり、長めの作品はほんとんど普通の短編ジュブナイルとして読める。その辺りの長めの諸作は巻頭に集められているが、そのなかでは標題作のケレン味が最高。
 孤島に財宝を捜しにいった二十面相がその島の伝説の吸血鬼の女王を目覚めさせてしまい、賊の部下が全員、血を吸われて彼女の眷属にされてしまう。二十面相はかつてない危機を迎え、やむなくふだんは宿敵の明智と小林少年に打倒吸血鬼のための応援を願うというもの。
 まさに正編「少年探偵団」シリーズでも、こういうものを読みたかった! という感涙のシチュエーションだが、一方でこの状況を成立させるには、二十面相以上の強敵を出す流れとなり、それではシリーズの約束事を損壊してしまう。また最後まで度外れたスーパーナチュラル要素が導入されなかった正編シリーズならまともな吸血鬼が出現するのはどうかとも思えるのだが、こういう外伝作品(乱歩公認~たぶん~による、他作家の二次創作)なら、そういうものもぎりぎりアリだろうと納得できる。少なくとも筆者的には大歓迎。

 標題作と同様の紙幅の短編作品(ジュブナイル基準なら中編といえるかも)がいくつか巻頭から収録されたのち、本書の後半は短めの探偵クイズ読み物になり、なかにはドイルの某作品のまんまイタダキもあるが、まあ当時としてはこれも許されたのだろうと微笑ましい。
 なお各編には編纂に当たった森・野村両氏の子細な解説も付加され、これもまた楽しいが、唯一、気になるのは後半収録の短編「悪魔の命令」のなかで明智夫人の名が「君代」と記述されてることに、なんの説明や考察もないこと。まさかこの異同に気づかなかった訳ではあるまい。

 新刊で買うとやや高価だが、貴重なものが読めるという意味では大歓迎のこの新シリーズ。巻末のリストを見ると、まだまだ未収録作品はたっぷりあるようなので、早めの続刊をお願いしたい。
 できれば武田武彦とかによる乱歩&少年探偵団ものの長編作品の代作・リライトなどもいっしょに復刊してくれると嬉しいんだけれど。

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