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ミステリの祭典

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墨攻

作家 酒見賢一
出版日1991年03月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 tider-tiger
(2017/09/24 22:12登録)
古の中国には墨子教団と呼ばれる奇妙な連中がいた。非攻の精神を基に、侵略にあっている国を助け、落城の危機に瀕する城を救う。通常は数人の墨子が組んで任務に就くのだが、教団内のいざこざのため、革離はただ一人二万の軍勢に踏み潰されんとしている小国の城の救援に向かうことになった。

史実と空想を織り交ぜた奔放な作風と簡潔にして格調高い文章が売りの酒見賢一氏です。
本作は中島敦記念賞を受賞しているそうです。漫画化、映画化もされています。小原庄助さんの書評に触発されて、懐かしさのあまり自分も酒見作品の書評を書きたくなりました。

革離が村人を統率し、自在に腕をふるう籠城戦が淡々と描かれていますが、とても面白い。
ただ、墨家というのはかなり特異な集団だったらしいのに、その特異さがあまり前面に出ていないように思えます。戦術に当時の最新の知見が盛り込まれてはいるものの、奇策と思えるようなものはなく、軍律そのものも、それを徹底することも基本に忠実な参謀という印象しかありませんでした。また、初読時は呆気ない終わり方に不満でした。

年を食って、淡々とした書き方の中に墨子の哲学が少しだけ見えたような気がします。本作のあっけない終わり方は、いかにも墨子らしくて素晴らしいと思っています。

ファンタジーノベル大賞という新人賞があります。自分はこの賞の第一回目の原稿募集の新聞記事を憶えております。この賞の受賞作は絶対に読もうと決めて、実際に読みました。「すごく面白かったけど、これはファンタジーなの?」と思いました。これが酒見賢一氏のデビュー作『後宮小説』でした。

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