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ミステリの祭典

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サンクチュアリ
ヨクナパウワ・サーガ

作家 ウィリアム・フォークナー
出版日1950年12月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 クリスティ再読
(2017/07/23 16:57登録)
先日「ミス・ブランディッシの蘭」の書評を書いたわけだが、やはりどうも気になるので元ネタというべき本作もやろうか。ハードボイルドなバイオレンス小説の古典だといえばその通りで、たまに「ミステリの名作」一覧なんかに採用されることもある小説だよ。
本作は1931年に出版されたフォークナーの出世作だ。同様にセンセーショナルな面が世論を刺激して、売れて映画化もされたけど、作家的にはちょいと黒歴史みたいなものになった感じがある。実際「ミス・ブランディッシの蘭」も本作のウリの再現をネラったような雰囲気がある。
性的不能者のギャング、ポパイはたまたま手中の落ちた南部のお嬢様であるテンプル・ドレイクに惚れてトウモロコシの軸で強姦し、ついでに知恵遅れの仲間トミーを理由もなく射殺する。テンプルを連れて逃亡するポパイは、メンフィスの娼家に潜伏し、テンプルに貢ぎつつ軟禁する。トミー殺しの容疑をかけられたアルコール密造者グッドウィンの弁護を引き受けた弁護士ホレスは、テンプルの行方を突き止めるが....という話である。ホント梗概は「ミス・ブランディッシ」そのものだ。後半の初めにポパイが新たにテンプルに惚れた男を殺すのも、スリムのロコ殺しに照応するし、ミス・リーバのメンフィスの娼家だって、お袋が経営する要塞クラブに対応するわけだ。さらに「ミス・ブランディッシ」初版にあったといわれる、スリムの残虐性描写とか強姦描写とか、「サンクチュアリ」では間接的な描写にはなるがちゃんと、ある。
まあフォークナーっていうとノーベル文学賞のご威光が強烈だ。本作、内情は前衛小説だけども、わざと狙った意図的なハードボイルドという感じの面がある。ホレスは突っ込んだ心理描写があるし、テンプルだと「意識の流れ」風の取り留めのない心理描写が特徴的だが、ポパイとその罪を被せられたグッドウィンだけは、まったく心理描写をせずに、純ハードボイルドで描かれている。尖がった心理描写はそれはそれで読んでいて面白いのだが、行為のまったく不条理なポパイとグッドウィンの方が、その内面性の完全な欠如によって逆に強く印象付けられることが、評者には興味深い。借りものな要素と見られがちな本作のハードボイルド性の方が、いつまでも消化されずに引っ掛かり続けるような印象だ。
というわけで、評者とかチェイスが「ミス・ブランディッシ」を書きたくなった動機が何となく理解できるような気がする...「ハードボイルド」という手法の「零度」さみたいなものを、露にしたいと感じたのだろう。「ミス・ブランディッシ」は全登場人物、内面なんて毛ほども存在しない絶対零度のクールさで徹底したわけだ。そういう意味で、逆に「ミス・ブランディッシの蘭」を本作から照らしなおすのもまた一興。
(これなら「ミステリの祭典」らしい書評になったかな?)

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