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ミステリの祭典

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ジョン・D・マクドナルド短編傑作集〈2〉牡豹の仕掛けた罠

作家 ジョン・D・マクドナルド
出版日1987年04月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 tider-tiger
(2017/04/18 23:18登録)
パルプマガジンに掲載された作者初期の短編から選りすぐられた作品集です。
原題は『The Good Old Stuff』
サンケイ文庫から『死のクロスワードパズル』と本作、分冊で出版されました。
絶版にしてamazonでさえ登録ありません。

はじめて読んだジョン・D・マクドナルドはこれでした。平成になったばかりの頃だったように思います。面白いけど、残るものがあまりないと、こういう印象でしたが、未だに愛着のある作品集です。エド・マクベインの本性が酔いどれ探偵だと思うのと同じように、ジョン・D・マクドナルドの良さがこの初期短編集には如実に出ているように思うのです。

ジョン・D・マクドナルドについて、miniさんがB級だが一流と仰ってましたが、非常によくわかります。
テーマがない、人物造型に深みがない、娯楽に徹して高尚とはいえない作風。
それでいて、チャンドラーよりもロスマクよりも小説書くのがうまいです。
(非難は覚悟しております)
楽しく読める。特筆すべき点がない(私はしばしばこの表現を悪い意味で使いますが、この場合は良い意味です)。書くべきことをきっちりと書いている。物語、人物描写、情景描写、背景描写が過不足なく、うるさくなく、混然一体となって淀みがない。怖ろしいことです。
例えば、女の子とドライブに行きます。当然、目的地に到着することだけがドライブではありません。いい音楽をかけて、楽しく会話して、恋人岬なんかに寄り道して、言われなくても気配で察してトイレ休憩、そういったものを総合してドライブといいます。ジョン・D・マックはすべて高いレベルでこなします。しかも自然に流れていくのです。
わかりやすいが陳腐ではない文章表現。ビシュッとかシュパパとかの一流作家が敬遠するような擬音をためらいなく使用したりする大胆さ、気取りのなさ。リーダビリティの高さは抜群です。さあ背景説明するぞと意気込んだりしません。犬が気付かないうちに注射をすませてしまう獣医さんみたいな感じです。きっちりと書かれて完成度が高い。もちろんストーリーも面白い。現代視点では月並との御意見もありましょうが。
あえて短所を言えば、ドライブの目的地がロスマクが姫路城だとするとジョン・D・マックは熱海秘宝館だったりする。だから、ロスマクよりも下みたいに思われてしまう。
(私はロスマク好きです。それから熱海秘宝館も三回も行ってしまうくらい大好きです。念のため)
以上、ジョン・D・マクドナルドの凄さを自分なりに書いてみました。

収録作
死者の呼び声
本番、七分まえ
牝豹の仕掛けた罠
湖面の虹
夜明けのチェックアウト
ブリキのスーツケース
残された六番ピン
若妻の失踪
以上、駄作なし。ありがちなネタもけっこうありますが、面白い。

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