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ミステリの祭典

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ソニア・ウェイワードの帰還

作家 マイケル・イネス
出版日2017年04月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2017/09/30 15:44登録)
(ネタバレなし)
 ロマンス小説の分野で大人気を誇る女流作家、ソニア・ウェイワード(本名ソニア・ペティケード)。そのソニアが、夫で元軍医のフォリオット・ペティケードとヨットでふたりだけでの遊興中、急死してしまう。贅沢な生活を支える収入の全てをソニアに頼っていたペティケードはとっさの判断で、妻の死亡事実を隠蔽しようと決断。妻の死体を海に捨てた。自宅に帰ったペティケードは、妻は海外旅行中と周囲に称し、途中まで執筆中の原稿は自らの手で書き継ぐが…。

 イネスが1960年に執筆したノンシリーズもの。軽妙なクライム? ストーリーで、主人公は、人気作家の妻が死んだという事実を秘匿するため、実にケチな隠蔽工作を続けていくだけ(後半、少し暴走するが)。
 しかし彼のそんな作戦の流れが、思わぬクライシスに妨げられることの連続という趣向で綴られていき、ちっとも退屈しない。全編を彩るイギリス流のドライユーモアも、どっか小林信彦を思わせる面白さで、読み易い邦訳を心掛けた翻訳者の苦労もうかがえる。
 ラストに至る大筋の流れは予想もつかないでもないが(これに関しては、原題の方がある意味ネタバレっぽい)、その手前の人を喰ったドンデン返しも悪くない。筆者がイネスの長編をまともに読むのは実はこれが初めてだが、楽しい一冊であった。

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