ある奇妙な死 ファロウ・ラブ |
---|
作家 | ジョージ・バクスト |
---|---|
出版日 | 不明 |
平均点 | 7.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 7点 | クリスティ再読 | |
(2017/04/09 16:00登録) さてその筋では「金字塔」と言われる作品。評者読みたいとは思っていたが読みそびれていた作品だ。要するにね、欧米のゲイ・ミステリの古典中の古典(1966)である。ポケミスの解説を太田博(=各務三郎で、この解説は「ミステリ散歩」に収録)が書いているのだが、この中で先行するゲイ・ミステリは50年代からいくつかあることを書いている。がまあさすがに翻訳はなさそうだ。もちろん日本だと乱歩や中井英夫もあれば、横溝正史だってゲイ設定のあるキャラはいくらでも...だけど、アンチ同性愛のキリスト教道徳ベースの欧米はなかなか難しいものはあるよね(点景人物でよければ「マルタの鷹」だって「大いなる眠り」だって...)。 でまあ本作が「金字塔」とまで言われるのは、探偵役と登場人物の恋愛を主軸に描いている、ということが欧米ミステリ初、だったわけだ。探偵役は黒人刑事のファロウ・ラブ。読んでて刑事、って感じは全然しないキャラだ。何か底の知れない不気味感のあるキャラで、狂言回しの作家セスと、腐れ縁っぽい依存関係に陥る。黒人でファラオで顔のない男の幻想をセスが見る...というと、ナイアルラトホテップ?という気もしないわけでもない(笑)。そのくらい腹の底が見えずに人を操るタイプのSで、関係者を男女を問わず「ネコ(というと Catだよね?)」呼ばわりする。セスと恋しても幸福な恋愛になりそうな気配はゼロだが、本作から始まる三部作だそうで、後の作品でファロウも警察を辞めて破滅するんだそうだ。 タイトルで「奇妙」とついているのは、Queer の訳なのだが、イマドキだったら「クィア理論」というものもあるわけで、要するに「クィア」とは「(ジェンダーとかの)カテゴライズから逃れること」だと解釈するのもアリだ。本作は、というと、人間模様を丁寧に多視点で追っていく(イキナリ回想がカットインするとか「意識の流れ」っぽい)のに重点があって、かなり文学性が強いし、らしい意外な真相(しかも二重底)はあるけどもパズラーっぽさはないし、心理主義だからハードボイルドとは対極だし、サスペンスというような興味はないし、探偵役が刑事でも警察小説らしいリアリズムはないし..で、ほんとジャンルというカテゴライズから逃れた作品である。 「人生はひき逃げドライバーだ」とクィアな人生を肯定する本作だから、次作以降ファロウとセスのカップルがどうやって「逃げ延びるか?」が興味あるところだけど、続編の翻訳は残念だけど、ない(セスは2作目で殺される、らしい。あ、あとセスの離婚手続き中の妻ベロニカが、チャーリーブラウンのルーシーっぽいキャラで、何かイイ味)。 |