home

ミステリの祭典

login
新・冒険スパイ小説ハンドブック
冒険スパイ小説ハンドブックシリーズ

作家 事典・ガイド
出版日2016年01月
平均点10.00点
書評数1人

No.1 10点 Tetchy
(2017/03/27 23:53登録)
これぞガイドブックと褒め称えたい。納得のヴォリュームと内容充実度である。そして何より編集に携わった人々の冒険・スパイ小説に対する愛に満ちている。

まず他のハンドブックと一線を画すのはガイドブックに載せるお勧めの作品を選出するのに、架空の冒険・スパイ小説全集全二十巻をつくる企画としているところにある。この内容が座談会形式で実に40ページに亘って掲載されているのだが、これが実に面白い。それぞれの選者の好みと拘りがぶつかり合い、時に敵に、時に味方につけて選考が白熱していく模様が描かれている。まさに冒険・スパイ小説好き、いや本好きには堪らない座談会であり、選者のそれぞれが至福の時を過ごしているのが行間から滲み出ている、ではなく、ドクドクと脈打つように流れ出ている。
選者は北上次郎氏を筆頭に霜月蒼氏、関口苑生氏、古山裕樹氏、吉野仁氏といずれも豊富な読書量を誇る冒険・スパイ小説好きで、その知識に裏打ちされた論理展開、時に北上氏の声の大きい好みの押し付けもありながら、どんどん全集が出来上がっていく様は実に面白い。他のハンドブックに見られなかった選考作を愉しみながら選ぶ様が描かれ、読んでいて実に心地よい。翻って他のハンドブックでは早川書房が自社の作品を選考したウェイトが大きかったため、実に恣意的な選び方だとWEB読者の声も多かったし、私も正直その感じは否めなかったが、本書においてはそれは皆無。今後ガイドブックを作る時は本書の形式を踏襲して、透明性のある選考を行ってほしいものだ。

そんな目利きの選者たちの選んだ逸品たちは恐らく前回のガイドブックにも挙げられたであろう定番中の定番もあれば、他のガイドブックでは見られない作品もふんだんに盛り込まれていてまさに百花繚乱。
更に後半は冒険小説好きの作家によるエッセイと作家論が220ページも占める充実ぶり。内容は各作品の解説の転用がほとんどであったが、それでもその作家自身の作品を俯瞰するのに実にいい資料となっている。

いやあ、やはりガイドブックはこうあるべきである。片手間で作るガイドブックには編者の愛が感じられず、そのようなガイドブックで読者層を広げようと思っている出版社こそが読者を呼び込む努力を怠ったがための現在の出版危機の諸悪の根源だと思われても仕方がなかったが、本書のように編者の愛情と血が通ったガイドブックが編まれていたことでその懸念はやや解消された。
前にも書いたがこれからのガイドブックは本書をお手本にして編んでほしいものだ。それが読み手の食指をそそり、色んな作品に手を伸ばしていこうとする意欲に繋がるのだから。

1レコード表示中です 書評