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ミステリの祭典

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因果鑑定

作家 林幸司
出版日2004年12月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 tider-tiger
(2017/03/14 23:50登録)
精神科医の因果穂(ちなみ・かほ)は鑑定料目当てに夜間の当直や精神鑑定のバイトに明け暮れている。そんな果穂の元に精神病院内で起きた患者間の殺人事件の精神鑑定の依頼が舞い込んだ。
少し前に書評した『ドキュメント精神鑑定』の著者(本業は精神科医)による精神鑑定ミステリ。

~著者のコメント~
鑑別診断は医師の最も大事な仕事。その過程は犯罪捜査に通じるところがあり、いつかはミステリーに仕立ててみたいと思っていました。本業を生かした精神医学を舞台にしていますが、華美で怪しい流行概念や言った者勝ちの精神分析ネタには依存していません。知的バトルが興奮に直結する、徹底した娯楽作品であることを保証します。 以上 amazonより

精神鑑定の場面が登場する作品はあるが、精神鑑定を中心に据えて組み立てられたミステリというのはあまり記憶にない。私が知る限りでは本書以外では一冊だけ著名な精神科医の作品があったが、それは残念ながら酷い出来だった。
本書は欠点も多いが、内容や方向性は悪くない。
問診と種々のテストから堅実に事実に迫っていく展開は地味だが興味深く読めた。
(個人的にはもう少し突っ込んだ医学的解説が欲しかった)
証人尋問におけるバトルは非常によかったし、仕掛けもなかなか効いていた。
ただ、小説を書きなれていない感がありあり。
まず三人称なのか一人称なのか判然としない書き方で、これが少々読みにくい。
また、場面転換が雑でなにが起こっているのかわかりづらい。特に序盤が酷い。
主人公が読者に軽薄と受け取られてしまいそう。娯楽作品ということを意識し過ぎて(あまり身近ではないテーマを扱ったがゆえにキャラくらいは身近な存在にしようとして)軽快と軽薄をはき違えたのでは。
『ドキュメント精神鑑定』において感じられた筆者の真摯な態度や思いやりが本作品の女医からはあまり感じ取れず、残念だった。
本業が忙しいとは思うが、精神鑑定ミステリを再び世に出して欲しい。
高度に専門的な知識と高度な小説技術を要すると思われ、それでいて派手な展開にはなりにくく、需要もそんなにはないと思われる。心の闇とか多重人格とか精神分析とかに書き手と読み手の興味が向いてしまうのは仕方ないのかもしれない。
個人的には興味ある分野なので伸びて欲しいと思うのだが。

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