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ミステリの祭典

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香住春吾探偵小説選〈2〉
片目珍作/西荻署 両シリーズ所収

作家 香住春吾
出版日2016年01月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2017/02/27 15:49登録)
(ネタバレなし)
 戦前から文筆家として活動し、戦後は「宝石」黎明期から短編ミステリを主体に活躍。放送作家としての実績も豊富な作者の作品の、新編纂著作集。

 今回は思う所あって先に第二集から読む。
 巻頭の『片目珍作君』は、作家の卵でハンサムな主人公・片目珍作シリーズの一本。主人公と同じ町に住む青年のもとに、ある日、まったく同じ顔の人物が出現。互いを偽物だと罵り合うのに疲れた双方がやがて次第に仲良くなり、このままもう一人の自分と同居してもいいや、という流れののん気でユーモラスな事件を語っている(お話は、それでもちゃんとミステリとして終わる)。
 「珍作君」シリーズは一集にも連作として収録されているようだが、これはどっちかにまとめて欲しかった。
 
 もう一つのハシラは、昭和30年から二十年ほどの長きにわたってミステリ小説分野を離れていた作者が、昭和50年に雑誌「幻影城」誌上で改めて再起した以降の諸作。大阪の貧しい人たちの人間模様をごく庶民的なユーモアとペーソス豊かに語る内容は、この21世紀の不況時代に改めて独特の情感を感じさせる。
 そのなかの四本の短編(短めの中編)で関西の警察署・西荻署の面々がシリーズキャラクターとして登場するが、作品の数が増えて行けば捜査官たちの地の顔ももっと語られて、さらに魅力的な連作になったかもしれないと思わせる。
 とまれ国産の事件ものの短編ミステリとしてはどれもそれなりに読ませて『暗い墓場』の犯罪が発覚する流れと切ない結末、『一割泥棒』の落語のような面白さ、『損をするのはいや』の人間関係の妙味……など各編がそれぞれ印象に残る。シリーズ外の『哀しき死神』の、昭和の某国産長編を思わせるような事件の真相もいい。
「幻影城」での再起の嚆矢となった『吾助の帰還』も落語風の味付けだが、貧乏な老人労務者の悲哀劇との背中合わせである種の人間のしたたかさを感じさせ、たまにはこういうのもいいな、と思わせる。

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