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ミステリの祭典

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零(ゼロ)の記憶

作家 風島ゆう
出版日2016年10月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 人並由真
(2017/02/15 16:42登録)
(ネタバレなし)
 都立清涼高校1年D組に在籍する如月零は、ひと昔前のヤンキー少女のように金髪に染め、度の無い黒縁眼鏡で武装する「おれっ娘」。校内に友人もいない。そんな零には、裸眼の状態で<常人には見えないもの>が見えてしまうというひそかな秘密があった。その零のもとにある日、中学時代の親友だった小堺咲智の訃報メールが届く。表向きは自殺と見做された咲智の死だが、零は自分の秘めた能力で何か不審を感じ取る。零の担任教師であり、彼女と妙な行きがかりのあった24歳の青年・鈴宮一貴は、事件を追う零を見守り続けるが。

 うーん…悪く…は…ない。不器用で不遇な女子高校生ヒロインとやさぐれた王子様ポジションの美青年教師との恋愛一歩手前を語る少女漫画的ノベルとしては、これはこれで丁寧に組み立てられている。その主人公2人の描写には行きすぎない範囲での作者の熱い思い入れも感じられるし、零の義理の弟・晃や、一貴のセックスフレンドの早苗、さらに中盤から登場する男女の刑事コンビなんかも、それぞれ脇役としてのキャラは(そこそこ~なかなか)立っている。終盤に明かされるある登場人物の内面の叙述も、そのタイミングで開陳したかった送り手の心情はよく分かる……ような気がする。

 問題は21世紀の現代ミステリとしての奥行きがあまり感じられず、真犯人の類推も登場人物のキャラクターシフトから早めに付いちゃうこと。
 でもそれでも作者は中盤で数回のツイストを設け、長編ミステリとしての緩急に気は使っている。意外な? 伏線も張っていて、終盤の謎解きのための工夫もしている。零の特殊能力も、ドラマの中でちゃんと機能する描かれ方をしている。だから、そういうソツの無さは認めなきゃいけない。

 まとめると(リフレインになるが)悪くはない、むしろ好ましい面もある、ちょっと変化球の青春ミステリなんだけど、作品の長所は(ミステリの定石を踏まえつつ)そのミステリ要素とは違う部分に置かれた感じ。
 
 …まあ、あえて作劇に文句を付けるなら、終盤に明かされるある登場人物の背後事情は、もうちょっと前半で小出しに伏線を用意しておいてほしかったこと、かな。

 それと読者によっては、この物語世界中の登場人物の大半が<零に対して、繊細でやさしすぎる>ことに摩擦感を抱くかもしれん。王道の少女漫画的な設定の青春ミステリが好きで、いま言った種類の感覚が気にならない人なら、楽しめるかもしれない。 

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