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ミステリの祭典

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ジャッジメント

作家 小林由香
出版日2016年06月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2017/02/13 17:48登録)
(ネタバレなし)
 西暦20××年の日本。凶悪犯罪の増加を背景に、新しい法律「復讐法」が制定される。謀殺や無差別殺人などの重罪犯罪者には、旧法による従来通りの裁きと、さらに新法「復讐法」による裁き=実際に殺された被害者と同様または近似の手段での復讐(殺傷)、双方の処罰の可能性があり、その決裁は被害者の遺族や関係者「法の選択権利者」に委ねられることになる。哀しみと憎しみの中で多くの遺族や関係者が法のもとに復讐を行うが、実行の段になって命を奪う行為に葛藤を覚える者も、そして隠されていた事件の真実を暴かれる者も、少なくはなかった。法的に認可された復讐を監督する「私」こと「応報監察官A8916」鳥谷文乃は、今日も復讐者のそばに立つ…。

 近未来SF的な(ちょっとだけディストピアものっぽい?)世界観で綴られる、全5編の異色・連作ミステリ。なんかどっかの青年コミック誌とかにありそうな設定で、もしかすると旧世紀の山上たつひこか、藤子A先生の漫画みたいな不条理作品みたいなのか…とも予期したが、そこまではハチャメチャまたはクレイジーにはならず、連作に関わる女性主人公・鳥谷文乃の苦悩や葛藤も交えたお仕事もの的な感触も強い。(ぶっちゃけ『ブラックジャック』とか『ザ・シェフ』とか『ギャラリー・フェイク』とかの専門分野プロフェッショナルものの感じでもある。)

 最初のエピソード「サイレン」が世界観のベースを語ったのち、残りの続く4編がなかなかバラエティ感に富み、特に四つ目の「フェイク」は特殊な要素を持ち込んだミステリとしても予想以上に面白い。一方で人間ドラマとしてのまとまりでは三つ目の「アンカー」がマイ・ベストだった。
(ちなみに作者は本作がミステリとしてはデビューらしいが、すでにシナリオ作家としては実績のある人らしく、テクニカルな筆致で読者を引き込もうとするあざとさも感じないでもない。先に私的ベストとした「アンカー」なんかその「泣かせ」が微妙なところもあるんだけど、まあ少なくとも良くできている、いっきに読ませる、とは思う。)
 この設定、深夜23時頃から演出的に規制の少ない放送局で、オリジナル編もふくめてワンクールものの、一話完結の1時間ドラマでやったら面白そうではある。

 ちなみに本書は連作として<かの復讐法のこういう場合のときの対処は?>とか、<こういうケースの時はどうなるか?>という読者側の疑問にもそれなりに先回りしてよく応えてあるけど、まだツッコミ所はあるよね。
 たとえば快楽殺人者が、「復讐法」が適用されない身寄りのない人物を恣意的に狙った場合、どう裁定するのか? とか。いつか、本書と同じ世界観の作品で、その辺にも応えてほしい気もする。

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