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ミステリの祭典

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黒い騎士殺人事件
月山 翔シリーズ

作家 永田文哉
出版日2016年07月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2017/02/11 16:59登録)
(ネタバレなし)
 両親を交通事故で失ったのち、妹のみどりと共に九州の祖父に引き取られた男子・月山翔。剣道をたしなむ高校生となった彼は素人探偵というもう一つの才能を発揮し、学友の協力を得ながらいくつかの殺人事件を解決に導いた。そして時は2004年の歳末。優れた剣道の技量で関東の京星大学にスポーツ推薦入学し、その2回生に進級した翔は、またも仲間たちとともに、不思議な殺人事件の謎に挑む。それは国際バレエ団の公演中に生じた、姿なき殺人者「黒騎士」による犯行だった!

 名古屋の自費出版会社ブイツーソリューションから刊行された、アマチュア? 作家の青春謎解きミステリ。作者の本を読むのは今回が初めてだが、webで頒布されていない? 形式で、すでに同じ主人公・月山翔のシリーズが2作あるらしい。(2004年の『レッドサタン殺人事件』と2010年の『タランチュラ殺人事件』。)
 
 経歴紹介で昭和28年生まれとある作者はたぶん専業作家じゃないんだろうが、本文では「大学のクラスメート」なる珍妙な言葉が普通に出て来たり(いや特例的にそういうのも存在するのは知ってるが、それなら本作内の設定でそうである旨、簡単に説明してほしい)、「却って」を「返って」と書いたり、漢字表記設定のはずの登場人物の名前がいきなり地の文でかな表記になったり、文章そのもののこなれも含めて、とにかく全般的に素人臭い。あと「看護師」を「看護婦」と書いてあるのも、これは2004年の設定の事件だから、残念ながらダメですね(公称の変更は2002年からだった)。
(ちなみにさらに、ブイツーソリューションのホームページでの紹介を見ると本書を「エッセイ・ノンフィクション」に分類してある。いや、こんな不可能犯罪、そうそう現実にあったら困るだろ…。)

 内容の方も、国際級のバレエダンサーを養育する専門の学院の周辺で起きる連続殺人と、同じく続発する怪異な失踪事件という掴みはまあ良いにせよ、警察の捜査状況がほとんど~まったく描写されなかったり、ゼロ年代とはいえIT関連機器の存在が全然、語られなかったり、リアリティの欠如もすごすぎる。
 まあ前者の警察の描写については、翔の友人・八田明彦の父が警察庁の幹部で便宜を図ってくれている、という最低限のイクスキューズはあるのだが、それにしても連続殺人が進行する作中に一人の刑事も出てこないってのは、強烈すぎた。

 …とまあ、いかにもアマチュア作品、という弱点が全開の一冊ではあるのだが、数時間かけてイッキ読みして、この作品、そこそこ~それなり以上に楽しめた(笑)。
 
 個人的な一番の大受けポイントは、後半の屋外の殺人のメイントリックで、わはははは……いや、これは『屍の記録』か『死の命題』『わらう後家(魔女が笑う夜)』クラスの<爆笑もののバカネタ>ではなかろうか! 
 前半のステージ上の殺人の方は、無理筋、昭和のバカミス、ミステリクイズ、と悪態をついてすませられる範疇のものだが(ただ、実はこっちの方もキライじゃない~笑~)、全体を通して読むと、なんか21世紀に恣意的に書かれた昭和の天然バカミスの再生! という感じで愛せてしまう。天然なワンアイデアということは承知の上で、たぶんこのトリック(大ネタ)も先に名を挙げた諸作同様、一生忘れることはないだろう。マトモなミステリマニアなら鼻も引っ掛けないような作品かもしれないし、この読者をポカーンとさせる興趣が、果たして実際に作者の本願かどうかもわからないが、とまれ自分は<こういうのも>大好きだ(笑)。
「黒騎士」の殺人予告状に関する部分とか、失踪事件の真相とか、肝心の後半の殺人の事後の処理とか、ツッコミどころは山のようにある内容だが、それでもこの一冊は<読んで良かった>と思う(笑)。

 ちなみに翔の周辺の友人グループの叙述は、作者がミステリとは違う部分で熱量を掛けている気もするけど、そっちの方はまあ普通に悪くないね。
 作者が全体的にプロの作家らしくなったら、もうちょっとこのキャラクターたちとも普通に付き合えるんだろうな。(いや、万が一そうなったら、この味は薄れちゃうのかしらん。) 

【2021年2月18日・追記】
その後2018~19年ごろのどこかのタイミングで、月山翔シリーズの前2作『レッド・サタン殺人事件』『タランチュラ殺人事件』は、「永守琢也」というちょっと違うペンネームで執筆されて、文芸社から上梓されていると判明した。現時点で『レッド・サタン~』の方だけ読んでみたが、キャラ設定や世界観はそのまま繋がっており、作者の筆名だけが変更になったようである。ペンネームを変えた事由は、現時点で不明。

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