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ミステリの祭典

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このミステリーがすごい! 2017年版
「このミステリーがすごい!」編集部

作家 雑誌、年間ベスト、定期刊行物
出版日2016年12月
平均点8.50点
書評数2人

No.2 9点 Tetchy
(2017/04/30 00:35登録)
今年は海外赴任中で海外で読むと容易に手に入れられない分、読書の欲求が普段よりも否応に増す思いがした。

さて今年の最大のサプライズは国内1位を大ベテラン、しかも本格ミステリ作家の竹本健治氏の『涙香迷宮』が飾ったことだろう。実にマニアックでコアなファンを持つ作家だから、この結果には本当に驚いた。内容は「いろは歌」による暗号物らしいが、48首もの数が収められているらしい。まさに究極の暗号小説で、逆にそんなマニアックな作品が1位を飾ることが『このミス』らしくもあり、またらしくなくもある。ポーの『黄金虫』の時代からミステリファンの暗号好きは変わらないということだろうか。またこの1位が呼び水となって氏の未文庫化作品がどんどん文庫化されるといいのだが。まずその皮切りとばかりに『かくも水深き不在』が文庫化されたのは素直に嬉しい。

今年は新顔の活躍が目立つ。常連陣は先に述べた作家以外では宮部みゆき氏、法月綸太郎氏、雫井脩介氏ぐらいである。この新人上位のランキングはこれまでの『このミス』の歴史でもあったことなので、単純に世代交代の時期にあるとは云えないだろう。ただ前年同様、選者たちの青田買い、新し物好きに拍車がかかっているような傾向もみられる。特にデビューして3年すれば顧みられない作家たちが多いと感じる。恐らくはフレッシュが故の新人の自由な着想が印象に残ったのであろうが、それでも作品は新人・ベテランの区別なく平等に評価してほしいものである。

さて海外作品は読後、絶対今年も1位と確信したドン・ウィンズロウの『ザ・カルテル』は惜しくも2位。この情念の傑作を見事蹴落としたのはアンデシュ・ルースルンド&ステファン・トゥンベリの『熊と踊れ』だった。この作品は各誌の年間ランキングでも絶賛されており、食指が思わず伸びてしまう作品である。
さてこの1位の作品は北欧ミステリであるがランキングを見ると今年は本書以外では11位のジョー・ネスボの『その雪と血を』の2作ぐらい。
逆に国内編とは打って変わって常連陣がランキングを占める。昨今の海外ミステリ翻訳事情の厳しさから厳選された作品が訳出されていることを考えると、これら常連陣は今なおクオリティの高い作品を出しているということになる。特にキングの3位はもう唖然という外ない。

その他本書の内容を観てみると、嬉しいのが座談会の復活だ。しかも覆面座談会だ。これがないとやはり『このミス』ではない。ただ往年に比べるとやや大人しめか。次回も開催されることを期待しつつ、もっと奔放にミステリを論じ、こき下ろし、そして賞賛してほしいものだ。
さらに海外短編オールタイム・ベスト選出も嬉しい企画だった。短編は案外読んでいるので選者たちの選出には既読作品が多いのも嬉しかった。しかしこれらオールタイム・ベスト選出は選者の黄金体験に特化されるため、どうしても古典が上位にランキングしがちだ。
その中で16位と18位に選出されたシーラッハの2作と19位のローレンス・ブロックとジェフリー・ディーヴァーのそれぞれ1作のランクインはそんな凝り固まった既成概念を吹き飛ばすほどの力を持った作品として高く評価されるべきだろう。ちなみにランクインしたディーヴァーの「三角関係」はホント傑作です。

今回は今までたびたび不満不平として挙げていた中身の薄さがどんどん解消され、また全く読まない「このミス」大賞受賞者の短編が排除されたことも嬉しい限り。ただ惜しむらくはジャンル別のコラムが2編しかなかったこと。コラムを次回はもっと増やして今回のような座談会に特別企画があるともう云うことなしなのだが、次回は30周年ということでその辺の充実ぶりを大いに期待しよう。

No.1 8点 mini
(2017/02/04 12:33登録)
ランキングされた個々の作品のレベルと、ランキング本それ自体の評価とは全くの別ものである
何故なら毎年出版されるミステリーのレベルの高低に対して、ランキング本側には何の責任も無いからだ、ただ単にランキングしているだけだし
したがってランキングされた個々の作品の評価はその各本で書評されればいいわけで、当然ながらランキング本自体の評価というのはあくまでもその編集内容で判断されるべきである
さてそういう意味では、編集内容に乏しかった昨年版に比べると、今回の『2017年版』には”オールタイム・ベスト、海外短編ミステリーベストテン”という目玉企画が有る
一昨年版の国内編に続いて要望に応えましたというところでしょう
ベストテン作品の解説や、アンケート(5位まで挙げるルール)に答えた評論家各氏のリストを眺めるだけでも楽しい
集計結果はまぁ多少のありきたり感はあるが、8位にストリブリング「ベナレスへの道」が入っているんだね、成程
20位以内にフォン・シーラッハが2作ってのは最近のアンケートらしい感じ
私としては森英俊氏の1位がカーシュ「豚の島の女王」だったのには流石と思った
あとマジック・ナポレオンズの植木さんの1位がなんとT・ゴドウィンの「冷たい方程式」、SF短編アンケートだったら上位に入りそうだけどね、あっでもあれか、SFという分野を超越してるような短編だからな

さて毎年恒例の”我が社の隠し玉”コーナーいくか

小学館:
ハーラン・コーベンの名を久々に聞いたな、コーベンは本持ってるけど積読で(苦笑)
あと、”アイスランドのクリスティ”って?

東京創元社:
創元のファンには本格派しか興味ないって読者も多そうだけど、創元は本格だけ出してるわけじゃないアピールですね

論創社:
最近はフレッチャーやウォーレスにも手を出してるが良い事です
デイリー・キング「鉄路のオべリスト」を、新訳じゃなくて昔光文社で出た時の鮎哲訳のまま出すのね

新潮社:
相変わらず冒険系に強い新潮社、思想的に右寄りと言われるぶれない姿勢が新潮らしい

原書房:
ここ壱番笑えた
終始コージー派の話題のみ、いかにもな本格ばかり期待されがちな原書房だけに、いやコージー派にも力入れてますよん、的なアピールなのでしょうか

(株)KADOKAWA:
昨年版で社名変更について説明したけど、まだ違和感が(笑)

集英社:
結構面白そうな企画を毎年打ち出すんだけど、我々読者側がなんとなく後回しにしてしまう出版社でもあるんだよなぁ、申し訳ありません

早川書房:
ここはねえ、ベテラン作家や安定路線よりも、新鋭に目が行ってしまう不思議な出版社
早川が手を出したのなら、という期待感があるんだよね

講談社:
早川とは逆で、既知の作家や安定シリーズに魅力が有る出版社(笑)
ただ今回のゴダードは凄そうだな、大作ぽいから手を出し難いけど(苦笑)

扶桑社:
安定化シリーズ路線と、たまに飛び道具的に出す超異色企画という両極端な出版社
ただ今年は安定志向ですかね

国書刊行会:
今年は何と言っても小説じゃなくて評論・研究部門
マーティン・エドワーズ「探偵小説の黄金時代」(森英俊訳)
まぁ国書だから本の単価高そうだけど(笑)

文藝春秋:
昨年版では惜しくもトリ逃したがついにゲット(笑)
個々の作家の名前の強みに助けられてる面も否定出来ないにしても、ここ毎年ランキングを賑わす好調さは健在、今年も強そうな顔触れですね


別のところで言ったんだけどさ、そろそろこの出版社メンバーの中に、”ちくま書房”を加えてもいいんじゃない、どうよ宝島社さん

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