home

ミステリの祭典

login
小説熱海殺人事件

作家 つかこうへい
出版日1976年03月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 クリスティ再読
(2016/12/11 22:45登録)
このサイトでいつか取り上げようと、評者は手ぐすね引いてた作品である。タイトルに「殺人事件」と入って、殺人事件の容疑者の警察での取り調べをテーマにした小説(劇が先行し、本作は作者自身によるノベライゼーション)である。これではミステリではない、とする方のが難しいというものだ。
とはいえ、直接のきっかけは「毒入りチョコレート事件」である。殺人事件を複数の人間が討議して、どんどんと事件のあり様が変化し膨れ上がっていく...というこの構図自体が「毒チョコは実は熱海殺人事件じゃないのかしら?」という疑問を抑えれなくなったんだよね。で再読。
タイトな戯曲バージョンと違って、小説はとっ散らかってるな。自作小説化は作者も初めてだったし..飛龍伝の小説化はもっと面白いよ。俗化した観光地・熱海で、うだつの上がらぬ若い工員が、美人ではない容姿(作中ではもっとアカラサマな言い方をするけどね)の女工を、腰ひもで絞殺したという、きわめて俗なありふれてつまらない三流の殺人と犯人が、取り調べの刑事たちとのやりとりを通じて、実存を賭けた告白に劇的な昂揚を見つけだし、一流の殺人と犯人へと成長する....あれ、これやっぱり「毒チョコ」だろ。「事件の成長」という構図の部分ではね。毒チョコと本作を隔てる部分というのは、事件とプロットの流れではまったくなくて、「美意識」というようなはなはだ曖昧な部分での違いでしかないのかもしれないね。
だからこそ、本作はとくにミステリの書き手に対する頂門の一針であろう。「殺人があったという幻想に安住するな!」とね。なるほど、ごもっとも。

1レコード表示中です 書評