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ミステリの祭典

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地底旅行

作家 ジュール・ヴェルヌ
出版日1963年01月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 Tetchy
(2016/12/02 00:01登録)
ヴェルヌ2作目の冒険先はなんと大胆にも地の底だ。アフリカという未開の地への冒険をテーマにした前作『気球に乗って五週間』はまだ現実的な冒険であったが、2作目にしていきなり現代人でも未踏の地である地底世界へ向かうという荒業には正直驚いた。

地中探検の窓口はアイスランドのスネッフェルスという火山にある火口と現代でも馴染みのない場所である。
まず冒険のきっかけが実に面白い。教授が古書店で買ってきた本の中からルーン文字で書かれた羊皮紙が見つかる。それは錬金術師サクヌッセンムによって書かれた暗号文でそれを解読すると地球の中心に繋がる道がアイスランドにあるとのこと。何とも冒険心くすぐる発端ではないか。ハリウッド映画を見ているかのような幕開けである。

そこからすぐに地底世界への旅になるかと思いきや、いつものヴェルヌらしく冒険に際しての準備が実に詳細で周到である。特に3ページに亘って詳細に書かれる準備品の数々―寒暖計、圧力計、精密時計、羅針盤、夜間望遠鏡、etc―は冒険者、探検者にとってもバイブルのような内容に富んでいるのではないだろうか。

延々と続く洞窟の中の探索行。暗闇ばかりを黙々と進む3人の男たち。冒険行としてはこれほど地味な物はないのだが、それが実に面白い。とにかくその詳細な描写が素晴らしい。時刻、日付、気圧、気温、方角、高度、距離を都度正確に描写するのだ。そして正しい道を歩いているか否かを地層の地歴を見ながら判断する。あたかも作者ヴェルヌ自身が鉱物学者化のような精緻ぶりだ。
ヴェルヌの博学な知識と冒険のリアリティを裏付ける随所に挟まれた詳細な地質学、鉱物学の知識。飲み水が無くなっていく絶望感の中、案内人の活躍によって九死に一生を得たり、暗闇の大洞窟の中で甥のアクセルがはぐれたりと実に波乱万丈だ。
しかし物語の山場は一行が地底に存在する大きな海に到達してから迎える。そこには雲もあり、そして太陽ではないが光も差す実に幻想的な世界が広がる。周囲にあるのは高さ10メートルを優に超える巨大キノコの森。一行は渡海を目指して手製のいかだで乗り出し、釣り糸を垂らしてみれば原始時代の海に生息していた化石魚がわんさかと釣れ、彼らの食料となる。更にプレシオザウルスやモササウルスを思わせる魚竜と蛇頭竜の戦いまでが出てくる。まさにこれこそドイルの『失われた世界』に匹敵する圧倒的イマジネーションが生み出したスペクタクルだろう。

う~ん、実に映画的だ。当時も今もこのジェットコースター的物語展開は胸躍らすことだろう。
読後にこれは映画『センター・オブ・ジ・アース』の原作ではないかと気付いた。しかし実は同映画では本書をバイブルとして地底探検をする主人公たち一行の姿が描かれていたのだ。この映画は既に観ていたのに本書が重要なカギとなっていることをすっかり忘れていた。
逆に本書を読むことで『センター・オブ・ジ・アース』をもう一度観たくなった。現代ハリウッドの一大冒険映画がどのように本書にリスペクトしているのか、確認することにしよう。

この歳になっても愉しめるクオリティ。改めてヴェルヌの偉業に感じ入る次第である。

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